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やわらかサイエンス
並んだ石いろいろ -世界遺産となった縄文遺跡群-(続編)
2018年に紹介した「並んだ石いろいろ(前・中・後編)」で、遺跡の石について紹介しました。その前編では「円く並べた石 ストーンサークル」と題して、「北海道・北東北の縄文遺跡群」を取り上げ、世界文化遺産としてユネスコへの推薦候補に選定されていることを紹介しました。
2021年5月のユネスコの諮問機関であるイコモスの登録勧告を受けて、2021年7月27日にユネスコ世界遺産委員会で登録が決定されました。そこで、今回、続編として世界遺産となった「北海道・北東北の縄文遺跡群」について紹介します。
北海道・北東北の縄文遺跡群は、北海道、青森県、秋田県、岩手県の4道県にある17の遺跡から構成されています。年代は1万5000年前頃から2400年前頃と推定されています。縄文時代のこの地域では農耕や牧畜が始まる前の採取・漁労・狩猟を生活の基盤としていました。人類は農耕や牧畜を開始するようになって定住が始まったと考えられています。しかしこの地域では農耕を伴わない採取・漁労・狩猟の生活で定住社会が形成されたことが1つの大きなポイントです。ではどのような採取・漁労・狩猟の生活だったのでしょうか。
採取
クリ、クルミ、トチノミなどの木の実や山菜が当時の人々の重要な食料でした。クリは特に加工しなくても食べられ、貯蔵や保存にも適していたそうです。トチノミは水さらしによるアク抜きが必要で、そのための水場の遺構が見つかっています。木の実などは、すり石や敲き石と石皿によって粉砕や製粉などの加工が行われ利用されました。キノコやイモ類などの根茎類も食べられていたと考えられます。
漁労
海や川での貝の採取のほかに漁も行っていました。丸木舟にのり、釣り針や銛を使って大きな魚を捕らえていたことが出土資料から分かっています。石の錘が発見されることから、錘で網を沈めて小魚などの漁をしていたようです。
狩猟
弓矢や石槍などを使って狩りをしていました。道具には、鋭い刃を作り出すことができる黒曜石や頁岩などが用いられました。狩る動物は、シカやイノシシ、ノウサギなどで、落とし穴や飼いイヌを利用してようです。
2つ目のポイントは複雑な精神文化の形成です。定住が始まると居住域と墓域が分離され、これは日常と非日常の区別が始まったと理解されています。徐々に集落の施設が多様化し、祭祀場ができます。大規模な集落から小規模な集落に分散が進み、複数の集落の共同の墓地や祭祀場が設けられます。これは複数の集落を繋ぐ精神的な支えとして位置づけされていたと考えられています。
精神文化とは、豊穣や狩猟の安全と家族の健康や先祖に対する畏敬などでしょうか。それを行動に移したものが信仰や祭祀などの行為や習慣です。それにはいろいろな道具や施設が必要になってきます。採取・漁労・狩猟の生活に必要な道具とはまた異なる造形品や装飾品が発展しました。その代表が土偶や漆器などの工芸品です。施設は石を直径40~50mほどの環状に並べた環状列石(ストーンサークル)や外径が数十メートル、高さ数メートルに円形の竪穴を掘って土を周囲に盛り上げた周堤墓(しゅうていぼ)です。
信仰や祭祀については、用途がわからない遺物が多数見つかっています。人や動物をかたどったもの、石を刀や剣のように棒状に加工したものなどがあります。豊穣や狩猟の安全、供養などの儀礼や威信の道具として用いられたと考えられます。
並んだ石いろいろの続編として縄文遺跡群の世界遺産登録を紹介しました。遺物として有名な遮光器土偶は、イヌイットの雪中の光除けゴーグルにも見え非常にユニークであり、愛嬌のある逸品です。縄文人がどのような暮らしをしていたのか、どのような精神性で儀式を行っていたのかを想像するだけでも楽しいですね。
是非、北海道・北東北の縄文遺跡群を訪ねてみて下さい。