技術資料
やわらかサイエンス
地球は磁石(後編)
科学で見る
ここからは、科学の視点で地球が磁石になる仕組みを見ていきましょう!地球科学には多くのことがわかっていますが、まだ解明されていない点も多々あります。ここでは、現時点での考え方を紹介したいと思います。
さて、方位磁針のN極がおおよそ北を向く理由について触れてみましょう。これは、地球に「地磁気」と呼ばれる磁場(大まかに北極付近にS極、南極付近にN極がある)が存在するためです。
これなら、地球の中心が磁石であると仮定すると、磁場が発生していると考える事ができると思います。では次に、地球の中心が何であるか、思い出してみましょう。マントルのさらに内側にある中心核(コア)ですね。

少し話は飛びますが、皆さんは「キュリー点」をご存じでしょうか?キュリー点は、温度が高くなればなるほど、物質は磁性を失うという特性を示す境界の事です。どんなに強い磁性を持つ物質であってもキュリー点を越えてしまったら磁石にはなりません。
話を地球へと戻しまして、コアはマグマの下にありますし、キュリー点を越えてしまうほど高温です。これらを踏まえて考えると、地球深部のコアは永久磁石とは言えません。あれ?これでは地球が大きな磁石とは言えませんね。

ここで登場するのが「電磁石」です。電流を流すと磁石になる石のことです。ということは、仮に地球が電磁石だとすると、電流が流れれば磁石になるわけです。次の問題は、この仮定で考えるならば、一体どこから電気的なエネルギーを持ってくるのでしょうか?ということです。一般的な発電機(ダイナモ)は磁石の助けを借りて起電力を得ます。磁石になるためには電気が必要で、電力を得るためには磁力が必要ですが、地球深部はキュリー点を越えているので磁石にはなれません。このように、堂々巡りになってしまいます。ではどうするか。現在では、電流も磁場もどちらも自前で用意すれば良いと考えられています。まさかの持参。これが「自励ダイナモ」と呼ばれる特殊な発電の仕組みで、地球はこの仕組みのもと磁場や電流を獲得していると考えられています。
ここまで発電機(ダイナモ)という言葉を特に説明なく使っていましたので少し補足します。
ダイナモとは、力学的な運動エネルギーを電気エネルギーに変換する装置の事です。これを頭に入れた上で自励ダイナモについての解説をします。
まず、自励ダイナモがどんな原理なのかをとっても簡潔に言うと、「コア内部の熱対流によるエネルギーが磁気エネルギーに変換され、それが電気エネルギーを生み出す事」です。後半の部分、磁気エネルギーが電気エネルギーに変換されるというのはファラデーの電磁誘導を思い浮かべてもらえたらわかりやすいでしょう。閉回路のそばにある動く磁石や、閉回路を通る磁場の変化によって電流が誘導されるという、あの法則です。

次に熱対流についてです。コアの内部で発生した熱は表層部にあるマントルへと熱を逃げようとします。一方で、コアの表層部は冷却による熱収縮で密度が高くなりコアの内部(底)へと沈もうとします。この熱による流体の循環運動が、地球磁場のエネルギーを生み出しています。
これらをもとに自励ダイナモの原理をかみ砕くと、「コアの内部で発生した、熱を逃がすために起きる流体の循環運動が、地球の磁気エネルギーをもたらし、それらが磁力線を横切って運動すると電磁誘導の仕組みから電気エネルギーが生み出される」、といった所でしょう。綺麗にまとまりましたね!
「ちょっと待ってくれ!!これなら最初の電流とか磁場とかはどこからやってきたんだ!!」という疑問を持った方は大変素晴らしいです。此処まで話をして、期待をしていた方がいたら大変申し訳ないのですが、この問題はまだ解決していません。
先ほども述べたように、これはあくまで考えられている一例です。自励ダイナモの問題の本質は、現在の地球磁場が最初の電流を作るための磁場となる答えになるかどうか、です。この問題をすべて解決しようと考えるならばコアの熱源についても理解する必要があります。熱源が存在するからこそ、コア内の流体は運動していると考えられていますし、なによりこの流体運動が磁場のエネルギーに関係すると考えられていますからね。
なんだか釈然としない終わり方をしてしまいましたが、今回は「地球は磁石」と題して話をしてまいりました。古代ギリシャで見つかった磁石の存在は、西暦1600年で地球も磁石であるという話へと進展し、現在でもこの謎の解明のために研究がされています。今後の研究や発見に期待ですね。