技術資料

やわらかサイエンス

地球は磁石(前編)

担当:渡辺
2025.02

皆さん、方位磁石はご存じでしょうか?コンパスとも呼ばれていますね。少なくとも名前くらいは知っているのではないかと踏んでおります。方位磁石の大枠の仕組みとして、地球が大きな磁石だから、と言うのは理科の授業で触っているのではないでしょうか。高校で物理を取っていたなら電磁誘導の章でお世話になっているかもしれませんね。
今回は「地球は磁石」というテーマのもと、色々と話をしていこうと思います。

コンパス(方位磁石)

歴史で見る

地球を語る上で外せないのが、歴史と磁石の話です。勿論、地球が磁石になる仕組みの話だけでも十分面白いですが、折角の機会ですから歴史を知るのもまた一興でしょう。事が起きた年代等、様々な情報を調べて記載していますが、あくまで私の調査と知識の範囲に基づくもので、絶対に正しいとは言い切れない事をご理解ください。

まずは冒頭でもお話したコンパスの起源についてです。磁石の起源は古代のギリシャにさかのぼります。彼らは鉄を引き付ける不思議な石、ロードストーンの存在を知っていました。小アジアのマグネシアという町で多くの石が見つかったため、そこから「マグネット」と呼ばれるようになったと言われています。場所を変えて中国へと目を向けると、昔の中国でも天然磁石や鉄の磁化は知られていました。西暦1000年頃、水を張ったお盆に磁石の針を浮かべると常に南を指すという事を発見します。これがコンパスの始まり、指南針(指南魚)です。これらの知識はアラビアを通りヨーロッパへと広がっていきます。そして、磁石を用いた羅針盤は、航海において欠かせないものへとなりました。

しかし、この時代において、鉄を引き付けたり、南北を指したりする磁石の性質は謎に包まれていました。ニンニクの匂いが磁石を狂わせるという迷信があったり、北極星が磁石を引き付けるため方位磁針は常に北を向くと考えられていたりしました。当時はこれが当たり前の認識でした。

磁石についての研究が進んだのは16世紀から17世紀頃です。西暦1600年に、ウィリアム・ギルバートが全6巻で構成される『磁石論』を出版し、磁石の謎が大きく解明されていきました。この『磁石論』は方位磁針が北を指すという性質に対して「地球そのものが巨大な磁石である」という説明を初めて与えた書物とされています。
余談ですが、17世紀の日本といえば江戸時代ですかね。細かい話をするのであれば、江戸時代の始まりは1603年とされているため、『磁石論』が発表されたときの日本は安土桃山時代の末期にあたります。ちょうど関ヶ原の戦いがあった年ですね。

地動説のイメージ

ギルバートは地動説に触れていないのかというと、そんなことはありません。むしろ地動説を支持するような内容を最終巻に記載していました。その為現存している『磁石論』の最終巻はしばしば失われたり損傷したりしているようです。教会の教えが絶対的とされるこの時代に、一歩間違えたらブルーノやガリレイと同じ目にあっていたかもしれないのに、相当な勇気をもって出版したのだと思います。凄いですね。

さて、時代背景についてはこのあたりで区切まして、続いて『磁石論』にて地球が巨大な磁石であると結論付けたギルバートの実験をとっても簡単に見ていきましょう。ギルバートが実験に用いたのは「テレラ」と呼ばれる、地球を模した小型の球形磁石です。小さな磁石の針をテレラの表面に沿って動かすと、地球上での方位磁針の動きを忠実に再現することを確かめました。さらにロバート・ノーマンによって発見(1581年)された地磁気伏角(伏角とは、地磁気の磁力方向が水平面となす角の事)も再現しました。テレラによるこれらの実験により、ギルバートは地球自体が一つの巨大な磁石であるという確信を抱きました。今では当たり前のように感じるかもしれませんが、当時これは大発見だったのです。

こうして、中国から始まったコンパス(指南魚)は、時代と場所を越え、ギルバートによって紐解かれ、現代へと伝わってきたのです。

後編では、「地球は磁石」というテーマを科学の視点から見てみます。


参考資料
1)京都大学大学院理学研究科附属地磁気世界資料解析センター『World Data Center for Geomagnetism, Kyoto』
 1-1)大いなる磁石、地球
 1-2)磁石の北と地磁気極と磁極
2)名古屋大学附属図書館 名古屋大学学術機関リポジトリ
 2-1)物質科学を学ぶための電磁気学の基礎事項 §16磁石と地球磁場
3)世界史の窓
 3-1)天動説
 3-2)地動説
4)櫻庭中 『地磁気と地球ダイナモ』 サイエンスネット No.28 数研出版
※最終閲覧日 2024/9/26

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