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地層が語る生物の進化シリーズ:第4回「ペルム紀(二畳紀)と三畳紀」
このシリーズでは、地球の歴史が地層に刻まれた「物語」を紐解きながら、生物進化の大きな流れを探っていきます。今回は、第4回として「ペルム紀(二畳紀)と三畳紀」を取り上げましょう。古生代から中生代への大きな転換期であるこの時代、地球上では劇的な出来事が相次ぎ、生物たちの暮らしぶりは大きく変わっていきました。
ペルム紀(二畳紀)(約2億9,900万~約2億5,100万年前):繁栄から試練への道
ペルム紀の特徴
ペルム紀は古生代最後の時代で、生物多様性が非常に高まった時期でした。陸上では全ての大陸が一つにつながった「パンゲア大陸」が出現し、気候は乾燥傾向へと向かいました。海中では、フズリナ(Fusulina)や三葉虫(Trilobita)など古生代を代表する生物たちが豊かに暮らしていました。
ペルム紀の地層学的な特徴
ペルム紀の地層には、砂岩・頁岩・石灰岩などが見られます。それぞれが当時の環境や生物の暮らしぶりを物語っています。
- 砂岩:主に乾燥地帯の河川や砂漠地帯の堆積物。雨の少ない陸上環境を示します。
- 頁岩:湖や浅い海で溜まった細かい泥が固まったもので、多様な生物の痕跡が残されやすいのが特徴です。
- 石灰岩:暖かく浅い海に住むサンゴや殻をもつ生物の死骸が重なり合ってできたものです。特に、フズリナ(有孔虫の一種)の化石が多く含まれており、ペルム紀の海洋生態系を象徴しています。
ペルム紀末の大量絶滅とシベリアトラップ
ペルム紀の終わりには、地球史上最大級の大量絶滅が起こり、約90%もの生物種が姿を消しました。この出来事は古生代と中生代を分かつ大きな転換点でもありました。
- シベリアトラップ(Siberian Traps):現在のシベリア付近で100万年以上続いた大規模火山活動により、地球大気中の二酸化炭素やメタンが急増しました。その結果、温暖化が起こり、海洋深部が酸素不足となり、多くの生物が生きられなくなりました。
- パンゲア大陸の影響:パンゲア大陸では大陸内部が広大な乾燥地帯となり、浅い海岸域が減ることで海洋生物の生息環境が大幅に縮小され、生態系が不安定になりました。
フズリナの絶滅と指標化石としての役割
フズリナ(Fusulina)は、ペルム紀の海で栄えた単細胞生物で、その殻が石灰岩形成にも関わりました。しかし、酸素不足と環境変化に耐えきれず、ペルム紀末に絶滅しました。絶滅のタイミングがはっきりしているため、後の地質学者たちにとっては地質年代を特定する「指標化石」として活用されています。日本では岐阜県の根尾谷断層や大垣市周辺などで、フズリナを含む石灰岩が観察できます。
左:フズリナを含んだ石灰岩(大垣城の石垣) 右: Fusulinids from the Topeka Limestone
(出典:ウィキメディア・コモンズ)
酸素濃度低下と巨大昆虫の消失
ペルム紀末の環境変化で大気中の酸素濃度は急落しました。石炭紀に栄えた巨大昆虫(Meganeura など)は高い酸素濃度を必要としていたため、この低下で大型種は生存できず、小さな昆虫だけが残りました。同時に、哺乳類型爬虫類(哺乳類の祖先に近い生きもの)も多くが絶滅へと追いやられました。
三畳紀(約2億5,100万~約2億年前):再生と新たな進化の幕開け
三畳紀の特徴
ペルム紀末の大量絶滅からの「復興期」ともいえる三畳紀は、中生代の始まりです。生態系は新たな形へと移り変わり、恐竜や哺乳類の祖先が少しずつその存在感を示し始めます。
三畳紀の地層学的特徴
三畳紀の地層には、砂岩や礫岩が多くみられ、河川や湖など内陸の環境が反映されています。また、火山灰が堆積し、パンゲア分裂に伴う火山活動の影響も記録されています。
- 礫岩:山地から流れ出た激しい流れの河川がもたらした、大きめの礫(小石)を含む堆積物。地形が急速に変化していたことを示します。
- 泥岩:湖など比較的静かな水域で泥が積もってできた岩石で、淡水生物の痕跡も見られます。
- 火山灰層:パンゲアが分かれ始めた頃の火山活動を刻む証拠です。
三畳紀の生物進化
絶滅後の「空いた生態系の場所(ニッチ)」をめぐって、新たな生物群が台頭しました。
- 恐竜の祖先:エオラプトル(Eoraptor lunensis)などの初期の恐竜たちが姿を現しました。エオラプトルは約2億3,100万年前に出現した最古級の恐竜で、恐竜時代の黎明期に存在したことから名前は夜明けの泥棒という意味を持ちます。小型で軽やかに走り、雑食性だったと考えられています。名前に「ラプトル」と付いていますが、ジュラシックパークの映画で有名なヴェロキラプトル(Velociraptor)とは別物で、もっと原始的で小柄な生物でした。
左:エオラプトル(Eoraptor lunensis) 右:エオラプトルとヒトとの大きさ比較
(出典:ウィキメディア・コモンズ)
- 哺乳類型爬虫類の行方:ペルム紀末で多くが絶えた哺乳類型爬虫類に代わり、ワニに近い主竜類が勢力を伸ばし、その中から恐竜が主要な地位を獲得しました。
- 海洋生物の復興:アンモナイト(Ammonoidea)や魚竜が再び繁栄し、海の生態系も新たな形に整えられていきます。
モルガヌコドンと哺乳類への道
モルガヌコドン(Morganucodon)は初期哺乳類の祖先的存在で、小さなネズミのような夜行性生物でした。彼らは鋭い歯や発達した聴覚を持ち、昆虫や小動物を捕食し、変化する環境に柔軟に対応できました。また、既に乳腺をもっていたと考えられています。このような生存戦略をとることで、大型生物が絶滅しても生き残り、中生代後半へと続く哺乳類の時代を準備したのです。
三畳紀末の絶滅
三畳紀末にも小規模な絶滅イベントが発生しました。
- 火山活動:中央大西洋マグマ大省(CAMP)と呼ばれる大規模な火山活動が進行し、大気中の二酸化炭素が増加しました。
- 気候変動:温暖化に伴う海洋循環の乱れや貧酸素環境の拡大が起こりました。
- 生態系の再編:この絶滅により一部の爬虫類や海洋生物が消えた代わりに、恐竜がさらに有利な立場を得て、その後の中生代(ジュラ紀・白亜紀)で栄えたのです。
「5大絶滅」におけるペルム紀末と三畳紀末の絶滅についてまとめると、以下のようになります。
余談:東京で見られる身近な「化石探し」
ここまで遠い過去の地層や化石の話をしてきましたが、実は現代の東京にも化石を見つけられるスポットがあります。建築物の壁や床に使われている大理石(石灰岩が地下深部で熱や圧力を受け再結晶化した岩石)には、かつて生きていた生物の痕跡が閉じ込められていることがあります。大理石は元々、石灰岩由来のため、かつて浅い海にいたサンゴや二枚貝、アンモナイトなどの殻の名残が残っている場合があるのです。
フズリナのような極めて小さな生物の化石は目立ちにくいのですが、アンモナイトやカニの化石なら、都会のど真ん中でも意外な発見ができるかもしれません。
- 日本橋三越本店:館内の壁や床にアンモナイトやベレムナイト(中生代のイカに似た生物)の化石が多数見られ、インフォメーションで「化石探検MAP」を入手すると、探訪をより楽しめます。
- 丸ビル地下入口:アンモナイトの化石が観察できることで有名なスポットです。
- 東京駅構内(新幹線南のりかえ口付近):カニの化石が見つかっており、何気ない柱や床に過去の生物の痕跡が潜んでいます。
こうした身近な場所で化石を見つけると、普段は意識しない「大地と生命の歴史」にふと想いをはせる、ちょっとしたきっかけになるかもしれません。
まとめ
ペルム紀(二畳紀)と三畳紀は、生命史において大きな転換点でした。ペルム紀は生物多様性が頂点に達した時期であり、多くの新種が出現しました。しかし、その繁栄が長く続かず、末期には史上最大級の絶滅が発生しました。一方、三畳紀はその混乱からの復興期で、新たな生物群が台頭し、恐竜を含む中生代の生態系が形作られる土台となりました。地層に残るこれらの変化は、過去の生命たちが幾度となく困難を乗り越え、新たな環境に適応していった証でもあります。
次回は「ジュラ紀と白亜紀」を取り上げ、恐竜がその存在感を最大限に発揮した華やかな時代と、新たな進化の瞬間を探っていきましょう。どうぞお楽しみに。
専門用語補足