技術資料

やわらかサイエンス

井戸の話 あれこれ(中編)

担当:藤原 靖
2024.03

前編では、あまり見かけなくなった井戸のこと、井戸がないと始まらない国のこと、井戸に関する法令について簡単に紹介しました。中編では井戸の掘り方やお城の井戸について紹介します。

井戸は地中に細い穴を掘るものです。入り口を広げて穴を掘るのは簡単ですが、細く筒状に地面を掘るのは難しそうです。どのような方法で掘っているのでしょうか。

井戸の掘り方

井戸の掘り方は3通りがあります。パーカッション工法、ロータリー工法、エアーハンマー工法です。

パーカッション工法は、歴史の古い工法です。重量のある掘削ビットをワイヤーロープの先端に吊り下げ、ロープを上下して掘削ビットを落として地層を突き崩しながら掘削する工法です。したがって規則的な騒音があります。
比較的軟らかい地層の掘削に適していますが、崩れやすい砂層や玉石層の掘削もできる工法です。

パーカッション工法のイメージ
パーカッション工法のイメージ

ロータリー工法は、トリコンビットと言われる刃先と地上の動力機械を金属製の管(ロッド)で連結し、機械でロッドを回転してビットを回転させます。ビットが回転することで、地層を切削破砕しながら井戸の穴を掘削する工法です。こちらは音は静かです。
ビットで掘った穴は、ケーシングという鋼管を繋ぎながら差し込んで穴を保護します。この工法は、深い井戸を掘る場合や硬い岩盤にも使える工法です。

左:ロータリー工法のイメージ、右:掘削終了後の揚水設備工事の風景
左:ロータリー工法のイメージ     右:掘削終了後の揚水設備工事の風景

エアーハンマー工法は、圧縮空気の力で先端部の掘削ビットをピストン運動させて、その繰り返しの打撃力によって地層を砕きながら掘削する工法です。掘削と同時にケーシングも打ち込んでいくため、作業に無駄がない効率的な工法です。狭いスペースでも使える工法です。

井戸掘りと言えば有名なのが上総掘り(かずさぼり)です。その名のごとく上総の国(千葉県の中央部)で発達した工法です。江戸時代中期は、鉄の棒で地面を突いて地下水を自噴させる掘り抜き井戸が広まっていましたが、掘れる深さは30m程度でした。
河岸段丘が発達した上総の国では,飲料水や農業用水の確保が困難でしたが、鉄棒の代わりに樫(かし)の木を使う樫棒式が考案されました。この工法により用具の軽量化と労力軽減ができて100m の深さまでの掘削が数人で行えるようになりました。
上総掘りの特徴は、先端に鉄の管をつけ、突き進むにつれて竹ヒゴを継ぎ足していくため深く地中を掘ることができ、また、軽量で弾力性のある竹を利用することにより、わずか数人で深井戸が掘れる点にあります。材料もほとんど現地調達できるため、上総地方の職人は全国に招かれて活躍したそうです。現在もアフリカやアジアなどの開発途上の地域に、上総掘りの技術を普及している人たちもいます。

かたつむりのような井戸

まいまいず井戸という井戸があります。地面にぐるぐる回る斜路を掘り下げて、地面を全体的にはすり鉢のように掘り下げて、すり鉢の底に井戸を作ったものです。ぐるぐる回る斜路が、まいまい、つまりカタツムリのようであることに由来します。
地下水が湧く地層が深い場合には、深い垂直な井戸を掘りますが、なかなか難しい技術です。そこで周囲の地面を掘り下げて、水が湧く地層に近付いて井戸を掘るというものです。
まいまいず井戸は、武蔵野台地で数多く掘られた井戸の一種だそうです。水が湧く地層の上に武蔵野台地の厚い火山灰層がのっているため、まずは厚い火山灰層をすり鉢状に掘り下げてから井戸を掘ったとそうです。

左:まいまいず井戸のイメージ、右:JR羽村駅東口近くの五ノ神社境内にある都指定史跡の井戸(東京都羽村市にしたまねっとより抜粋)
左:まいまいず井戸のイメージ
右:JR羽村駅東口近くの五ノ神社境内にある都指定史跡の井戸(東京都羽村市にしたまねっとより抜粋)

お城の井戸

日本の城には必ず井戸があります。攻められて籠城した時には、食糧と水は必須です。水が無ければ数日しか生きていくことができません。城の中では、水を得るための場所を「水の手」と呼ぶそうです。水の手のための曲輪という尾根や斜面に造成してつくった平坦地が築かれ、土塁や石垣で囲んで守りを固めている場合もあります。城には、水という名前のついた曲輪があり、井戸には特別な名前が付けられています。

左:伊予松山城本丸の井戸、右:大阪城の金名水井戸
左:伊予松山城本丸の井戸        右:大阪城の金名水井戸

井戸で水が確保できれば良いのですが、難しい場合は地下に山の湧き水を溜めておいたり雨水を溜め、貯めた水を井戸でくみ上げていた場合もあるようです。
城の井戸は本来の水を得る目的だけでなく、財宝の隠し場所や抜け道などの伝説も多く残っているようです。

中編では、井戸の代表的な掘り方やちょっと変わった井戸の作り方、城の井戸を紹介しました。後編では江戸時代の江戸の井戸と井戸にまつわる話を紹介します。

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