技術資料

やわらかサイエンス

井戸の話 あれこれ(前編)

担当:藤原 靖
2024.02

井戸は水をくみ上げる設備ですが、水道の普及であまり見かけなくなりました。最近、身近に井戸を掘る工事をしている場所がありましたので、井戸について少し見てみたいと思います。

私たちの生活の中で井戸が無くなったわけではありません。手押しポンプのような地上の設備をあまり見かけないだけで、実際にはいろいろな目的で使われています。温泉などはその最たるものだと思います。工場なども様々な用途で水を使いますので井戸が設置されています。
井戸は水を得るためだけではなく、地層の収縮や帯水層の水位変動など地中で起こっている事象を観測するために観測機材を設置した観測井というものもあります。
今回は、井戸にまつわる話をいくつか紹介したいと思います。

左:小さな神社の手水舎(ちょうずや、てみずや、てみずしゃ)を兼ねた手押しポンプのある井戸、右:防災時の利用を目的として設置された手押しポンプのある井戸、普段は近隣の家庭菜園の水やりなどに活用
左:小さな神社の手水舎(ちょうずや、てみずや、てみずしゃ)を兼ねた手押しポンプのある井戸
右:防災時の利用を目的として設置された手押しポンプのある井戸、普段は近隣の家庭菜園の水やりなどに活用

まずは井戸、水がないと始まらない

例えばアフリカの半乾燥地域が多い国では、水の確保が何事においても先決になります。特に学校や病院など、人が集まる施設を作る場合などは水の確保が深刻な問題です。また気温の高い、暖かい地域では、ため池のような施設に水を貯めることは難しいのが現実です。蒸発により水が減ることもありますが、どうしてもボウフラが湧いたり汚水が混入したりと不衛生になりがちです。そのため、井戸を掘って清浄な水を確保することが重要になります。

学校や病院を建設する場合は、いくつかの候補地に試しの穴(ボーリング)を掘って水が得られるかどうか調査します。ある程度の水が得られそうな場所が見つかれば、有力な候補地となります。しかし水の量だけでは良くありません、水の質も大切です。そうやって候補地を絞り込んでいき、やっと建設地点が決まるという具合です。

村落の共同井戸           小学校の井戸
左:村落の共同井戸           右:小学校の井戸

井戸を掘って手押しポンプを設置すると大勢の人が利用します。毎日使うとポンプは故障するのが当たり前です。
手押しポンプは、ハンドルを押し下げることでピストンが動いて内部に真空状態を作って、大気圧との差の力で水を吸い上げ、弁の開閉で水が出てくる仕組みになっています。単純な構造ですが、どうしても可動部分があるのでここが消耗して故障してしまいます。
また汲み上げた水をその場所で炊事や洗濯に使って、その汚れた水が地中に染み込んで、きれいな地下水を汚染してしまって水が使えなくなることもあります。何事も手入れとルールを守って使うことが大切です。

井戸は自治体の条例で管理されています

日本では井戸を掘る場合は、許可や届出が必要です。ただし、一戸建ての住宅で家事用のみに井戸水を使用する場合は井戸ポンプの出力が300ワットを超えるものや手押しポンプの場合は届出対象外です。
家庭用の井戸を作る場合は、1週間程度で100万円未満の費用で設置することができるようです。災害時の防災井戸として個人で設置する人も多いそうです。

左:家庭用の小型の手押しポンプの井戸、右:手押しポンプの構造
左:家庭用の小型の手押しポンプの井戸     右:手押しポンプの構造

工場や事業所で地下水をくみ上げて使う場合は、地下水という水資源を守るためと水に関係する生活や産業などの環境を保つために各自治体に条例が定められています。
まずは井戸を作ってもいいですか、ということから始まります。設置許可を貰うことです。提出が必要な情報としては、自治体によっても異なりますが、例えば近隣図(半径50メートル以内の建物用途がわかる地図)、配置図(敷地図に井戸のある場所を図示したもの)、井戸の構造図、給水系統図(地下水がどのような用途で使用されているのかがわかるフロー図)、揚水機・水量測定器・水位計のカタログなどです。
井戸を設置した人(会社など)は、施設の利用や休止に関わらず環境保全関係の条例に基づいて、地下水の揚水量を測定して、毎年1回、揚水量報告書を提出しなければなりません。
このように井戸の設置許可や運用の管理は非常に厳格なものになっており、私たちの水資源や水環境を守っています。

前編では、あまり見かけなくなった井戸のこと、井戸がないと始まらない国のこと、井戸に関する法令について簡単に紹介しました。中編では井戸の掘り方について紹介します。

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