技術資料

やわらかサイエンス

レアメタル・レアアース その2 -安定供給が肝心-(後編)

担当:藤原 靖
2023.10

前編では、資源安全保障という視点での安定供給の重要性に注目し、安定供給での対応策としての供給源を多角化の例として海に求める日本と地下に求めるスウエーデンについて紹介しました。後編では、対応策としての備蓄をしっかりする、リサイクルを行う、代替材料を開発するについて紹介します。

■備蓄をしっかりする

国家備蓄の対象になっているのはレアアースを含む31鉱種のレアメタルと4鉱種(炭素(C)、フッ素(F)、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si))の34鉱種です。備蓄は国家備蓄と言って、石油及び液化石油ガスと同様に独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が行っています。

JOGMECのホームページによると、「備蓄物資は、レアメタル国家備蓄倉庫において一元管理しています。国家備蓄倉庫は茨城県に位置し、面積は約37,000平方メートル(野球場3面分)です。備蓄物資の効率的かつ安全性の高い管理だけでなく、倉庫棟やヤード棟、トラックスケール(備蓄物資の受け入れ・放出時の重量計)などの備蓄設備の維持管理も行っています。」とあります。

左:全国の国家石油備蓄基地の形式と配置 右:レアメタル・レアアースの備蓄物資保管状況 (左右いずれも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)ホームページ/JOGMECの事業/資源備蓄より抜粋)
左:全国の国家石油備蓄基地の形式と配置
右:レアメタル・レアアースの備蓄物資保管状況
左右いずれも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)ホームページ/JOGMECの事業/資源備蓄より抜粋)

■リサイクルをきちんとやる

国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)が、危惧されている将来の金属資源の利用に対して、都市鉱山と呼ばれる国内に蓄積されリサイクルの対象となる金属の量を算定した結果、都市鉱山は世界有数の資源国に匹敵する規模になっていることを発表しました。
可能な限り正確に見積もった結果、金は、約6,800トンと世界の現有埋蔵量42,000トンの約16%、銀は、60,000トンと22%におよび、他にもインジウム61%、錫11%、タンタル10%と世界埋蔵量の一割を超える金属や白金など国別埋蔵量保有量と比較するとベスト5に入る金属が多数あることが分かったとのことです。数字としては驚くべき割合です。

ここで重要な点は、都市鉱山は埋蔵量ではなく備蓄量ということです。しかしこの備蓄の状態は、国家備蓄や企業備蓄のような意図したものと違って、国内に散在しているものです。また資源のように特定の場所に高濃度で素性が分かって存在するものではありません。
具体的には、私たち消費者の手元にある電気電子機器など、工場のスクラップや回収された廃棄物など、既に廃棄され焼却や埋め立て処分されたものなどになります。したがって、備蓄を資源に変える、つまり利用するためには管理下に置かなければならないという極めて大きな課題があります。

課題解決の1つとして、特定家庭用機器再商品化法や資源有効利用促進法(3R法)のような使用済みの電気電子機器を回収というプロセスを経て管理下に置くような法制度の整備や社会システムの構築が必要となっています。

携帯電話の基板や外装に使用されている資源
(国立研究開発法人 物質・材料研究機構/NIMSの分析調査結果の紹介/レアメタル・レアアース特集/都市鉱山より抜粋)
携帯電話の基板や外装に使用されている資源
(国立研究開発法人 物質・材料研究機構/NIMSの分析調査結果の紹介/レアメタル・レアアース特集/都市鉱山より抜粋)

仮に都市鉱山を管理下に置くことができても、実際には、あるにはあるがうまく使えないという状況にあります。電気電子機器がいかに希少金属を含んでいても、機器の多くの部分はプラスチックなどで、希少金属の量はごく僅かです。金銭にして100円くらいだそうです。したがってたくさん集めないと効率が悪くなります。
しかし実際の解体・破砕・選別、抽出・精製、その他部分の適正処分となると、採算の点やライフサイクルでのエネルギーの問題が立ちはだかります。

そこでさまざまな解決策が検討されています。製品開発時からの再資源化を前提としたリサイクル設計というのがありますが、それはそれで製品の機密保持や差別化などの問題があるそうです。回収の要となる製錬については、多元素の回収ができる技術、目的金属を効率的に取り出す技術の開発が進められています。

レアメタルのリサイクルの例としてプラチナとインジウムを紹介します。プラチナは自動車の排気ガスの浄化用の触媒やパソコンや携帯電話の基盤に使われています。そのため比較的回収が進んでいるため、プラチナは最もリサイクルが進んでいます。基盤からの回収では、一緒に使用されている金、銅、銀、パラジウムも回収されています。
インジウムは導電性があり透明なため液晶やプラズマといったフラットパネルディスプレイの電極に使われています。しかしパネルディスプレイからの回収はほとんどなく、工場の製造過程でのスプラップ材からの回収のみ進んでいるそうです。

自動化、高度効率化が求められるリサイクルプロセスのイメージ図
自動化、高度効率化が求められるリサイクルプロセス

■代替材料を開発する

レアメタルの代替技術についての研究開発も進んでいます。透明電極材料のインジウム、希土類磁石材料のジスプロシウム、超硬工具材料のタングステンなどが対象になっています。

具体的には、インジウムでは、用途の1つである透明電極用ITO(酸化インジウムと酸化スズの混合物であるIndium Tin Oxide)の代替材料として、二酸化チタン系の透明電極材料を用いるものがあります。
ジスプロシウムは、モーター用磁石の主成分であるネオジウムに添加することによって高温での保磁力や磁束密度を高めるために使われています。代替材料はなく、添加量をできるだけ低減する技術開発が行われています。なお、磁束とは、その場における磁界の強さと方向を、1(Wb(ウエーバ))を1本とした線の束のことです。
タングステンは超硬合金としての用途が主です。その代替材料としては、硬質なセラミックス粒子を金属で結合した複合材料であるサーメット合金の開発があります。サーメットとは、セラミック(ceramic)のように硬く、メタル(metal)のように粘り強いという意味で、2つを合わせてサーメット(cermet)と名付けられたそうです。

■国どうしの連携を強化する

2023年7月に日本と欧州連合(EU)は、レアメタルのサプライチェーンの持続性を強化するために連携して、情報共有と技術協力を進めることを発表しました。具体的には、独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が窓口となり、レアメタルのビジネスでの危機管理対策、投資リスク、需要予測、備蓄状況に関する情報交換、採掘、精製、代替品、リサイクルに関する技術開発などについて協力するものです。
資源を持つ特定の国への過度な依存を軽減するために資源を持たない国々の連携が重要になっています。

レアメタル・レアアース その2 ー安定供給が肝心ー は如何でしたでしょうか。
資源の少ない国では安定供給に向けてさまざまな試みをしています。その方法は1つではありません。課題解決の多くは国レベルのことですが、「リサイクルをきちんとやる」は、私たちもその一翼を担うことができそうです。小型家電回収ボックスやリサイクルショップに不用品を持ち込む時など、是非、レアメタル・レアアースのことを思い出してみて下さい。

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