技術資料

やわらかサイエンス

レアメタル・レアアース その2 -安定供給が肝心-(前編)

担当:藤原 靖
2023.09

「レアメタル・レアアース その1 -レアだけに貴重です-」では、レアメタル・レアアースの種類の多さ、多岐にわたる用途、産出国の偏りについて紹介しました。そして資源安全保障という視点での安定供給の重要性に注目しました。

安定供給での対応策としては、供給源を多角化する、備蓄をしっかりする、リサイクルを行う、代替材料を開発するなどがあげられます。レアメタル・レアアース その2 -安定供給が肝心- では、これらの対応策について見てみたいと思います。

■供給源を多角化する

海に求める日本

日本は現在のところレアメタルの産出がほとんどありません。ですが、海洋鉱物資源という強い味方がいます。海洋鉱物資源には、海底熱水鉱床、マンガン団塊、コバルトリッチクラスト、レアアース泥があります。中でもコバルトリッチクラストとレアアース泥が有望株です。

<海底熱水鉱床>

海底熱水鉱床は、地下の深いところに浸透した海水がマグマにより熱せられ、周囲の固体部分から有用元素を溶かし込んだ「熱水」が海底に噴出し、海水によって冷却されることで、銅、鉛、亜鉛、金、銀等の各種の金属元素が沈殿して固体となったものです。

海底熱水鉱床は、水深500~3,000mの中央海嶺(大洋の中央部を長く走る海底山脈)など海洋底が拡大する場所やニュージーランド~フィジー・パプアニューギニア~マリアナ~日本に至る西太平洋に分布しているそうです。世界では約350か所の海底熱水鉱床と考えられる場所が発見され、日本周辺海域では、沖縄トラフや伊豆・小笠原海域で、海底熱水鉱床とみられる場所が数多く確認されています。日本周辺海域の海底熱水鉱床は、世界的にもみても比較的浅い水深に分布しているそうです。

左:4つの海洋鉱物資源の産状(独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)ホームページ/海洋の資源/海洋鉱物資源の分布のイメージを参考に図化)
右:深海底鉱物資源の世界分布(深海資源株式会社ホームページ/深海底鉱物資源/地球上の最後の未開拓地、深海底に眠る豊富な鉱物資源とは、より抜粋)
左:4つの海洋鉱物資源の産状(独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)ホームページ/海洋の資源/海洋鉱物資源の分布のイメージを参考に図化)
右:深海底鉱物資源の世界分布(深海資源株式会社ホームページ/深海底鉱物資源/地球上の最後の未開拓地、深海底に眠る豊富な鉱物資源とは、より抜粋)

マンガン団塊

マンガン団塊は、ハワイ沖やインド洋などの水深4,000~6,000mの平坦な海洋の堆積物の上に半分埋没した状態にある2~15cm程度の球形の塊です。一般的に中心には玄武岩、石灰岩、サメの歯などの大型化石の核があるそうです。
主成分は鉄、マンガンですが、銅(約1%)、ニッケル(約1%)、コバルト(約0.3%)、1,000ppm前後のレアアースが含まれています。

<コバルトリッチクラスト>

コバルトリッチクラストは、マンガン団塊と同じような化学組成で鉄・マンガンを主成分としています。コバルト(約0.9%)がマンガン団塊に比べ数倍程度高く、コバルトリッチという名前になっています。レアアースも平均で約2,000ppm含有するそうです。
コバルトリッチクラストは、北西太平洋域の海底に点在していて、長い年月をかけて海水から形成されたと言われています。水深約1,000~2,500mの海山(海底から1,000メートル以上の高さの比較的孤立した高所)の山頂部から斜面にかけての表面を5~20cm位の厚さで覆っているそうです。

<レアアース泥>

レアアース泥は、水深4,000~6,000mの泥状の堆積物で、日本では南鳥島周辺の排他的経済水域内にあります。数1000ppm以上のレアアースが含まれることが分かり、注目されています。
レアアース泥は、スカンジウム、イットリウム、重レアアースに富むこと、層状に分布すること、トリウムやウランなどの放射性元素をほとんど含まないことなどの特徴があるそうです。岩や石ではなく泥なので、吸い上げることができる、希塩酸に容易に抽出できるなど、取扱いに有利な点があるそうです。

日本がレアアース泥を資源として開発できれば、安定供給が実現すると考えられます。レアアースの品位が高く、日本の年間需要の数10~数100年分のホテンシャルが見込まれるそうです。しかし、現状では、レアアースが濃集した場所の分布状況が不明瞭、4,000mを超える深海底からの採泥・揚泥技術が確立されていない、開発時の環境影響範囲が不明など、多くの課題があります。通常の鉱山での採掘・製錬と異なり、海上・海中での探査、環境影響評価、採泥・揚泥、選鉱(分離)・製錬(精製)、残泥処理など、広範な技術開発が必要です。
また海洋においての環境保全として、深海は地球最大の炭素吸収源であり、気候変動に対する重要性から、深海からの鉱物採取を厳しく制限しようとする人や企業があります。そして排他的経済水域内や公海にける深海採掘のモラトリアム(一時停止)の要請や表明する国々も増えています。持続可能な未来を実現する主要技術に欠かせないレアメタルですが、その開発においてはジレンマが立ちはだかっています。

レアアース泥の採取とレアアース回収のイメージ
(東京大学「南鳥島レアアース泥を開発して日本の未来を拓く」を参考に図化)
レアアース泥の採取とレアアース回収のイメージ
(東京大学「南鳥島レアアース泥を開発して日本の未来を拓く」を参考に図化)

-地下に求めるスウェーデン-

2023年にスウェーデンの国営鉱業会社LKABは、北部キルナで欧州最大のレアアース(希土類)鉱床を発見したと発表しました。欧州諸国は現在、携帯電話などの電子機器の生産に欠かせないレアアースをほぼ中国からの輸入(98%)に頼っており、「中国依存からの脱却が始まる」との期待が高まっているそうです。

発表によると、確認されているレアアース鉱床はPer Geijer鉱床で、レアアース酸化物の埋蔵量は100万トン以上で欧州最大規模です。資源探査の結果、5億トン以上に及ぶ鉄分の高い鉱物資源と、副産物として100万トン以上のレアアース酸化物の埋蔵が確認されています。埋蔵量は、世界の推定埋蔵量1億2000万トンの1%にも満たないのですが、EUの将来的なネオジム磁石の製造のための需要に対して充分な量となるそうです。
また、食糧生産に欠かせない肥料成分として重要なリンが副産物として産出するため、リン使用量の90%をロシアなどからの輸入に頼っている現状を軽減できるそうです。

しかし、新規採掘が周辺の水資源や生態系に及ぼすリスクも懸念され、環境リスク評価など、採掘を認可するプロセスの長期化も予想され、実際に採掘・出荷を始めるまでに10~15年かかるとも言われています。

左:欧州最大のレアアース鉱床発見を発表するLKABのモストロム最高経営責任者(左)とスウェーデンのブッシュ・エネルギー相
右:キルナ近郊で発見された地下でのPer Geijer鉱床(赤矢印)の賦存位置のイメージ(APF BB News動画のスクリーンショット)
左:欧州最大のレアアース鉱床発見を発表するLKABのモストロム最高経営責任者(左)とスウェーデンのブッシュ・エネルギー相
右:キルナ近郊で発見された地下でのPer Geijer鉱床(赤矢印)の賦存位置のイメージ(APF BB News動画のスクリーンショット)

前編では、資源安全保障という視点での安定供給の重要性に注目し、安定供給での対応策としての供給源を多角化の例として海に求める日本と地下に求めるスウエーデンについて紹介しました。後編では、対応策としての備蓄をしっかりする、リサイクルを行う、代替材料を開発について紹介します。

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