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やわらかサイエンス

レアメタル・レアアース その1 -レアだけに貴重です-(前編)

担当:藤原 靖
2023.06

経済や技術に関した報道では、レアメタル・レアアースという言葉が頻繁に出てきます。いつも電気自動車やスマホなどのハイテク製品には欠かせない材料として紹介されています。
そこで今回は、レアメタル・レアアースについて、様々な視点から見てみたいと思います。

 触媒の盗難相次ぐ

2022年、トヨタ自動車のプリウスの旧型モデルのマフラーを狙った盗難が、千葉県で相次いで発生しているとの報道がありました。千葉県内でのマフラーの窃盗被害は、2021年では12件であったのが、2022年では133件だったそうです。窃盗の目的は、マフラーに装着されている触媒コンバーターを狙ったものでした。

同種の窃盗被害は日本だけではなく、アメリカでも社会問題になる規模で発生しています。アメリカのオレゴン州では、盗品の触媒コンバーター約44,000個が警察の捜査によって発見されました。犯罪組織は、オレゴン州を拠点にワシントンやネバダ、カリフォルニア、テキサス、ニューヨークなど複数の州で、触媒コンバーターの窃盗に及んでいたそうです。

触媒コンバーターは車体のフロア下、排気系統の中間に装着されているため、ジャッキアップして簡単にアクセスできてしまいます。こうした被害を防ぐため、ターゲットになりやすいハイブリッド車、特にプリウス向けに、触媒コンバーターを隠すアンダーカバーなどの需要がアメリカで拡大しているそうです。また触媒コンバーター専用のセキュリティアラームなども発売されているそうです。

左:自動車の触媒コンバーター(白丸部分)、右:触媒コンバーターの構造(赤丸部分が触媒)
左:自動車の触媒コンバーター(白丸部分)
右:触媒コンバーターの構造(赤丸部分が触媒)

触媒コンバーターはエンジンから排出される排気ガスに含まれる窒素酸化物や一酸化炭素といった有害物質を浄化する目的で装着されています。内部にはプラチナ、パラジウム、ロジウムといった、レアメタルの仲間であるレアアースが使用されています。これらの金属元素は産出国に偏りがあり、パラジウムはそのほとんどがロシアからの供給です。現在はその供給が滞っているため価格が高騰し、金よりも価値があるとすら言われるようになりました。

どんな金属でしょうか?

レアメタル・レアアースは金属鉱物資源です。金属鉱物資源を分類する時には、私たちの経済活動の視点で分けられているようです。
レアメタルという言葉は、主として生産と消費量の観点で、メジャーな金属元素とマイナーな金属元素として、前者をベースメタル、後者をレアメタルと呼んでいます。ベースメタルは、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム、スズ、鉛です。

レアメタルは、わが国では経済産業省により31の鉱種が指定されています。31鉱種とは、30のレアメタル金属元素を30鉱種とし、17のレアアース金属元素を1鉱種とした合計31鉱種です。鉱種とは、天然の均質な無機物である鉱物の種類のことを示す呼び方です。
1鉱種にまとめられたレアアースは、希土類(きどるい)とも呼ばれるもので、スカンジウム(Sc)、イットリム(Y)、ランタノイド15元素(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)の17元素から構成されています。ランタン(La)からサマリウム(Sm)までを軽レアアース、ユウロピウム(Eu)からルテチウム(Lu)を重レアアースとし、スカンジウム(Sc)、イットリム(Y)、重レアアースが産業的に重要とされています。

周期律表の中の鉱種の分類表
周期律表の中の鉱種の分類

わが国では31の鉱種が経済産業省により指定されていると書きました。レアメタルの定義には国際的な規格はありません。レアメタルは、概念的には地球上に稀で、技術的、経済的な理由で抽出困難な鉱物種です。
しかしその需要(必要性、重要性)は、それぞれの国で異なっているので、必ずしも同じ鉱種になるとは限らないのです。

また生産と消費量の観点でと書いたように、価格の観点では、貴金属という分類もあります。宝石的な金属である貴金属は、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)です。

「レアメタル・レアアース その1 -レアだけに貴重です-(前編)」では、周期律表の中でレアメタル・レアアースがどこにいるのかを見てみました。
中編では、どのようなレアメタル・レアアースがどのようなものに使われているのかについて紹介します。

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