技術資料

やわらかサイエンス

木々と暮らし -生活・景観・防災-(中編)

担当:藤原 靖
2023.04

前編では、空師や特別な木の管理について紹介しました。次は公共の木について見てみます。
公園や道路の植栽枡や植樹帯に植えられた木々は、都市の木々と言えます。このような植栽は緑化と呼ばれ、人々の目を楽しませ日常生活に潤いをもたらしています。しかし経年の成長や植栽基盤の制限、病虫害によるダメージなどで負の側面を見せることがあります。日常生活に欠かせない都市緑地の負の側面について理解しておくことも重要です。

東京都街路樹診断マニュアル・東京都建設局/樹勢・樹形の活力度診断基準表のうち「樹勢」の項目のみ抜粋
東京都街路樹診断マニュアル・東京都建設局
樹勢・樹形の活力度診断基準表のうち「樹勢」の項目のみ抜粋

都市の樹木が抱える問題

高度経済成長期に整備された街路樹が、植栽された樹齢が10年くらいであってもそれから数十年以上の樹齢となっています。街路樹は公園などに比べ、植栽範囲が制限されアスファルトやコンクリートで周囲が固められ、根系となる道路の地下には水道やガス管などの設備もあり、根の伸長に相当な抵抗があります。また排気ガスを浴びたり、過剰な剪定などで健全な状態にあるとは言えないものが多いようです。

このような都市の公共の場に植えられた木々が抱える問題点は、市民生活での安全性の低下と景観の悪化があげられます。
安全性の低下は、木々がスクスクと育ち、樹木本体が高く太くなることによって、葉が茂り過ぎて、過密化や根上りが起こることです。その結果、周辺の施設への接触や倒伏を引き起こします。自治体の公園や道路管理者などは、台風や強風がある度に神経をすり減らすと言われています。
景観の悪化は、前述のような場面もその1つだと思いますが、特に植栽基盤(土壌)の劣化や木材腐朽菌などの影響で、生育不良や樹勢の衰えにより、貧弱な街路樹や植栽になることです。

自治体のホームページには、「危険な街路樹の発見にご協力下さい」とする案内が掲示されています。枯木、枯枝、折れ枝、根元が腐っている木、根元付近が空洞の木などが対象です。全国の自治体は街路樹についての対策に乗り出しています。横浜市では2014年度から4年間にわたって約3万本の点検を行いました。
点検は3段階からなり、全部の街路樹を目視などで樹木の状態を診断する初期診断、問題のありそうな樹木をさらに調べる外観診断、外観診断で異常と判断した樹木について細かく調べる精密診断があります。

左から:ベッコウタケが発生した事例、根元に空洞がある事例、幹に亀裂の入った事例の写真

   左:ベッコウタケが発生した事例  中:根元に空洞がある事例 右:幹に亀裂の入った事例

初期診断は、キノコの付着具合、幹や根の空洞、枝枯れや腐朽の有無について調べ、外観診断や緊急対応の必要性を判断します。横浜市の例では、約20%が要外観診断だったそうです。外観診断は目視で詳細に観察するだけではなく、道具を使って打診するなど、より細かく樹木の状態をチェックします。精密診断は、細い針金を樹木の内部に差し込み空洞の割合を調べるなど、精密診断補助器具を使って行います。横浜市の例では、100本調査すると3~4本が危険な状態だったそうです。

~ 精密診断補助器具 ~

  • 貫入抵抗測定器
    樹幹に細いキリを挿入して、キリにかかる抵抗値で健全度を測定。挿入抵抗が大きければ、樹木は健全。
  • γ線樹木腐朽診断機器
    ガンマ線が物質の厚さ及び密度によって変化することを利用して、幹を傷めずに樹木の腐朽状況を測定。
  • 音波断層画像診断器
    幹にぐるりと取り付けたセンサーの間を通過する弾性波を測定し、木の断面画像を作成して腐朽・空洞の有無を検査。
  • 多点式応力波速度測定器
    打診音源他を用いて生じた振動である応力波および弾性波でCT画像のような診断画像で検査。直径2m以上の幹、高樹齢や巨木に対応可。
  • 音響波樹木内部診断機器
    音波を用いて音の遅れを感知して空洞の有無と位置を測定。

街路樹診断を行った街録樹は、歴史的な価値があるものや特別な樹木を除き、総合判定に基づいて処置を施すことになります。総合判定は、健全か健全に近い、注意すべき被害が見られる、著しい被害が見られる、不健全の4段階で、処置方針は、観察、剪定、樹体保護、植栽基盤の改善、根上がり、病虫害防除などです。
観察は、短期周期あるいは長期周期で適宜行われます。剪定は、枯れた部分や支障となる部分あるいは風圧を軽減するための剪定などです。樹体保護は、支柱、ワイヤー、ロープを使った支柱の設置です。植栽基盤の改善は、客土、土壌改良、湿害・乾燥害対策、踏圧防止、施肥などです。根上がり対策は、根の誘導やシート、エッジング(仕切り版)、縁石を使った伸長抑制などです。病虫害防除は薬剤の散布や樹幹注入などです。

東京都街路樹診断マニュアルより・処置の内容の一部
東京都街路樹診断マニュアルより・処置の内容の一部

中編では、都市の木、街路樹の問題点や管理について紹介しました。
散歩やウォーキングの時に、是非、街路樹の健康状態をチェックしてみて下さい。後編では、山の斜面の木の効果や植林の実情について紹介します。

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