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やわらかサイエンス
輝く砂粒 -砂粒の資源-(後編)
中編では砂粒の資源として重要な鉱床のでき方、機械的な過程でできるものと化学的な溶脱の過程でできるものについて紹介しました。後編では、砂粒の資源の代表格である砂鉄の採取と製鉄について紹介します。
砂鉄と鉱床
砂鉄は磁鉄鉱、チタン鉄鉱が主な鉄鉱物で、含まれる鉄は四酸化三鉄(Fe3O4)の化学組成で黒色を呈します。この鉄が酸化した場合、つまり鉄が錆びた場合は、酸化第二鉄(Fe2O3)の化学組成となり赤褐色を呈します。砂鉄は磁鉄鉱を含むため、磁石に吸いつきます。
砂鉄が集積したものが砂鉄鉱床です。日本の砂鉄鉱床として有名な中国地方に産するものは主に山砂鉄と呼ばれ、残留鉱床に由来します。北海道、青森県、千葉県などで産出される砂鉄は、漂砂鉱床に由来します。一般には太平洋岸よりも日本海岸の方が良質の砂鉄が採れるとされています。日本海岸の砂鉄の代表が中国地方、特に山陰の出雲地方の砂鉄です。山陰側の砂鉄は、磁鉄鉱系列花崗岩に由来する砂鉄で、鉄の純度が高く、「真砂砂鉄(まささてつ)」と呼ばれています。
砂鉄の採取
砂砂鉄は日本の中では、風化した母岩中の砂鉄を山砂鉄、土砂と一緒に河川に流れ込み自然に淘汰されて土砂と分離し川床などに堆積した砂鉄を川砂鉄、さらに海に押し流されて波によって更に淘汰分離され海浜に打ち上げられて堆積した砂鉄を浜砂鉄と呼んで区別しています。
出雲地方などの山砂鉄の採取方法は、カンナ流し(鉄穴流し)と呼ばれる水による分級選別で、砂鉄の分布地で最寄りの川の水を使って比重選鉱する方法です。この方法は大正時代まで使われていたそうで、0.5~10%の砂鉄含有量であったものが80%程度の純度にして採取することができたそうです。
カンナ流しは土砂を水で流すため、砂鉄以外の多量の土砂の濁水が生じ、田畑への土砂の流入や土砂堆積による河床上昇によって洪水を誘発するなどの被害や災害を引き起こしました。しかし一方で、地形改変による土砂の移動で新しい耕地ができるという側面もあったようです。広大な出雲平野の形成にもカンナ流しが関係しているとされています。また中国山地で棚田として残っているものは、このようなカンナ流しによる地形改変で形成されたものが多いそうです。
砂鉄の製鉄
砂鉄は鉄鉱石が使われるまでは重要な鉄資源でした。西日本(とくに中国地方)では、古くから山砂鉄が採掘されてきました。時代の趨勢によって現在では全ての砂鉄鉱山が閉山していますが、鳥取県では玉鋼及び日本刀製造技術の保存・伝承を目的として、限定的に山砂鉄が採掘されているそうです。
砂その砂鉄の製鉄方法が、砂鉄を木炭の燃焼で還元して鉄を作る「たたら製鉄」です。日本刀の制作にとっては、たたら吹きによって製鉄される玉鋼(たまはがね)は、現在でも欠かせない材料です。しかし、砂鉄には不純物のチタンが含まれるため、近代の高炉による製鉄では不具合が生じて、かえって砂鉄の利用は不向きでした。
たたら製鉄では、砂鉄は燃焼する炭のすき間を落下する過程で、還元作用を受けて鉄に化学変化するしくみになっています。したがって、たたら製鉄では、炭が大変重要な役割を果たします。
炭用の木材はナラやクヌギなどの雑木ですが、1回のたたら製鉄で10トン強の炭が必要になります。この炭を作るには森林面積にすると1ヘクタールが必要と言われています。たたら製鉄の盛んな頃は、年数十回もの製鉄が行われていたそうで、そのための炭を確保するには膨大な森林が必要となり、広大な森林伐採が営々と行われ続けました。
したがって、たたら製鉄は、持続可能な生産方法ではありません。森林伐採による裸地化、地形改変による斜面崩壊、河川の水質汚濁などの災害が発生します。このような問題について、作品で描こうとするテーマの1つの伏線にしたのが、宮崎駿監督によるアニメーション映画「もののけ姫」です。
作品の中では、「たたら製鉄」に従事する人々の様子がいきいきと描写されていますが、荒れ果てた山や自然に対する畏怖の乏しさについても描かれています。
輝く砂粒 ~ 砂粒の資源 ~ はいかがでしたでしょうか。
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