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やわらかサイエンス

世界の宝物 肥沃な黒土(後編)

担当:藤原 靖
2022.11

前編ではウクライナに広がるチェルノーゼムと農業、象徴的なひまわりについて紹介しました。ウクライナではチェルノーゼムは、生活と経済になくてはならないものです。またチェルノーゼムは世界の各大陸にも存在しています。後編では、世界のチェルノーゼムの兄弟というべき3つの黒土について紹介します。

■チェルノーゼムの兄弟たち

北アメリカ

チェルノーゼム(黒土)に分類される北アメリカ中央部の土壌は、プレーリーと呼ばれるカナダ南部からアメリカ南部まで広がる草原と低灌木の地域に分布しています。プレーリーは、主に米国では大平原と呼ばれるグレートプレーンズの東部と中央平原の西部を中心に分布しています。年間降水量は数100mmで、やや乾燥した地域であるため、腐植の分解や流出が少なく厚い腐植層となるチェルノーゼムに分類される黒土が分布しています。
プレーリーには豊かな草原が広がり、アメリカバイソンやプレーリードッグなどの野生動物が生息しています。プレーリーという名前は牧草地または平原を意味するフランス語で、この地域に住む哺乳類のプレーリードッグにちなんで名づけられました。 西部では肉牛の放牧が盛んであり、北部では、トウモロコシ、大豆、小麦、綿花、甜菜(ビート)などの主生産地である穀倉地帯となっています。

左:北アメリカの地形  右:プレーリードッグと黒土と草原
左:北アメリカの地形   右:プレーリードッグと黒土と草原

南アメリカ

南アメリカにもチェルノーゼム(黒土)が分布しています。パンパと呼ばれる平坦な大草原で、アルゼンチン中部、ウルグアイ、ブラジル南部のラプラタ川流域に広がる草原地帯です。
パンパは、年間降水量550mmで湿潤パンパ(東側)と乾燥パンパ(西側)に分けられます。湿潤パンパでは、トウモロコシやアルファルファの栽培と牛の放牧がおこなわれ、乾燥パンパでは羊の放牧が行われています。また湿潤パンパと乾燥パンパの中間地帯では、小麦栽培がおこなわれています。アルゼンチンでは耕地の80%、牧草地・放牧牧草地の60%がパンパで、小麦の95%がパンパで生産されています。

パンパにはガウチョと呼ばれるアメリカ合衆国のカーボーイのような牧畜を行う人々がいました。ガウチョは元々はペルー方面からこの地域の開拓にやってきたスペイン系の農業移民が、インディオとの抗争の中で農業から離れ、大繁殖した野生の牛や馬を追って生計を立てるようになった人々とされています。
現在では、ガウチョは職業や社会階層としては無くなりましたが、この地域の人の気質や誇りとして残っているそうです。またガウチョが着用していたガウチョパンツという裾が広がった七分丈のパンツが、ゆったりとして履きやすく、動きやすいことが特徴のファッションアイテムとして残っています。

左:パンパの分布域  右:ガウチョパンツ
左:パンパの分布域  右:ガウチョパンツ

中国

中国にもチェルノーゼム(黒土)が分布しています。黒土は中国でもトウモロコシ、小麦、豆類、芋類の主要な生産地です。しかし園芸用の土としての大規模な盗掘や過剰な肥料の使用による土壌の劣化により、黒土地帯の生産能力が約10%低下していると言われています。
そのため、中国ではパンダと並ぶ保護対象として、黒土の保護を目的とした「黒土保護法」を作り農業を守ろうとしています。黒土を盗んだ場合は、土1立米当り約10万円の罰金だそうです。いかに黒土が資源として大切かを物語っています。

世界の宝物 肥沃な黒土は如何でしたでしょうか。肥沃な黒土は、気候のマッチングだけでできるものではありません。人間の健全な農業生産活動を通した維持管理で後世へと受け継いでいくべき宝物です。自国で自給自足ができる国は限られています。世界的な食糧生産と安定供給は、世界の国々にとって大変重要なことです。今回は、その一翼を担うチェルノーゼムとその兄弟たちに目を向けてみました。

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