技術資料
やわらかサイエンス
軽石の重い話 -海を漂う軽石-(後編)
前編で紹介したように海に漂いまた浜に打ち上げられた軽石は、ある程度回収することができるようになりました。回収した軽石の有効利用についても検討されています。後編では軽石の特徴を利用した有効利用について紹介します。
■軽石のゼオライト化
鹿児島県工業技術センターと神奈川県立産業技術総合研究所は、常圧・100℃以下の温度条件において、シラス軽石の孔構造を残しつつ一部を溶かし表面をゼオライト化することに成功し、小笠原諸島の海底火山噴火により漂着した軽石についてもゼオライト化に成功したそうです。
ゼオライトは非常に微細な電子顕微鏡レベルの孔が無数に空いた多孔質の鉱物です。その特長的な性質としてイオンや分子を吸着するというものがあり、工業的なろ過材や土壌改良材、身近なものでは猫のトイレ用の砂などとして、広範囲に使われている鉱物です。天然のものもありますが工業的に合成され生産されています。
左:走査型の電子顕微鏡でみたゼオライトの表面の様子
右:透過型の電子顕微鏡でみたゼオライトのミクロな細孔の様子
(横井俊之:高分解能SEM/STEMによるゼオライトの構造解析の最前線, THE HITACHI SCIENTIFIC INSTRUMENT NEWS, 2016,Vol.59 No.1)
軽石などの火山噴出物を材料にしたゼオライトの合成技術は以前からあったものです。
1999年の逸見彰男氏らの請求項が25に及ぶ人工ゼオライトの特許もその1つです。材料はケイ酸とアルミニウムを含む無機成分なので、火山噴出物、都市ごみの焼却灰、石炭火力発電所の石炭灰やフライアッシュなどいろいろです。製造方法はアルカリ水溶液中で加熱するものです。
■軽石の性質を残したゼオライト
2つの研究機関が共同で発表した軽石のゼオライト化も軽石を水酸化ナトリウム水溶液に浸して100℃以下で加熱することで、化学反応を起こしてゼオライト化する方法です。この技術により、軽石の内部はそのままで表面だけをゼオライト化することができました。このゼオライト軽石の技術で特許を申請したそうです。
ゼオライト軽石は、いろいろな物質を吸着保持する性能がありますが、軽石の性質を維持して水に浮く特性を備えていることから、活用の範囲がユニークになると思います。水の表面での有害物質の除去、例えば赤潮の原因となるアンモニウムイオンの海面表層での除去に応用できると思います。
■南西諸島ならではの軽石の活用
鹿児島県の徳之島でコーヒー園を営む宮出博史氏は、漂着した軽石をコーヒー園の土壌改良に使っているそうです。漂着した軽石を袋に詰め、水につけ塩分を抜いて乾かしてから土に混ぜると水はけが良くなり木の生育がよくなるそうです。地元の中学生も授業の一環として作業を行っています。
徳之島のある奄美地域の土壌は、主に石灰岩、粘板岩、花崗岩、泥灰岩、海砂・サンゴ片(砂丘土)を母材とした土壌です。土壌の多くは粘着性が強く、耕うん作業がしにくいという性質があります。特に主要な土壌である石灰岩質土壌は、保水性が悪いため干ばつの被害を受けやすく、粘板岩土壌は透水性が低いため湿害を受けやすい土です。
そのため、保水性と透水性の両方の改善効果のある軽石が、改良材として有効なのです。またこれらの土壌は、石灰は豊富ですが、腐植(有機物)やリン酸は乏しい土壌なので、肥料の保持効果のある軽石はもってこいと言えます。
コーヒー栽培はコーヒーベルトと呼ばれる北緯25度から南緯25度の間の地域が適しています。
中南米のグアテマラ、ブラジル、コロンビアなど、アフリカのエチオピア、タンザニアなど、アジアのベトナム、インドネシアなどです。
日本は北緯20度から46度ですから、北緯20度から25度の地域が適していることになり、沖縄県や鹿児島県の南西諸島や東京都の小笠原諸島が該当します。このような島嶼地域の土壌は石灰岩や粘板岩系、火山噴出物などを母材としているので、土壌の肥沃さや水はけの良さ、耕しやすさなどが求められるコーヒー栽培では難しい面があります。しかし栽培者の様々な工夫により非常に良質のコーヒーが生産されているそうです。
軽石の重い話 ~ 海を漂う軽石 ~ は如何でしたでしょうか。
厄介者扱いされた軽石ですが、人の知恵によっておおいに役立たせたいものです。