技術資料
やわらかサイエンス
軽石の重い話 -海を漂う軽石-(前編)
2021年8月に発生した小笠原諸島の福徳岡ノ場の海底火山の噴火で発生した軽石が、沖縄周辺や太平洋沿岸に押し寄せ、船舶の航行、漁業、観光等に対する様々な被害が生じました。今回のやわらかサイエンスは、この海を漂う軽石について紹介します。
■福徳岡ノ場
噴火した海底火山のある福徳岡ノ場は、小笠原諸島の南硫黄島の北北東約5kmに位置しています。南硫黄島とともに北福徳カルデラという複合巨大海底火山の中にあり、福徳岡ノ場はその中央火口丘(噴火口の中に新しく噴火してできた小さな火山)です。
海底火山の噴出物からできている海域は水深が浅いため、良い漁場になるそうです。福徳という名前は、おそらくこの海域を漁場としていた漁船名が由来ではないかと考えられています。
福徳岡ノ場のマグマの岩質は粗面安山岩質という酸性岩(ケイ酸の含有量が多い)であるため、塩基性岩では溶岩のような液状の噴出物であるのに対して、固形の軽石となっています。また溶岩だと大きな塊になりますが、軽石だと粒状のものが積もった状態なので浸食されやすいため、明治以降に3度、島になっては消えているそうです。
■軽石による被害
軽石の特徴は、自然のものであること、軽くて水に浮く、脆くて壊れやすいなどの性質があげられます。
軽石による被害として、魚やウミガメなどの海洋生物が食べている、胃から出てきた、フンに混じっていたなどの事例が報告されています。特に海の表面近くのプランクトン、クラゲ、小魚などを丸のみする生物にとって、軽石はやっかいかもしれません。しかしフンとして排出されることが多いと思われます。
沖縄県は軽石に含まれる重金属などの有害物質についても調査をして、カドミウムなど、国の土壌環境の基準値以下であることを明らかにしています。また自然のものなので、マイクロプラスチックとは、環境負荷の様相が異なると思います。
船舶も軽石による被害にあっています。船舶はエンジンの冷却水として海水を取り込んでいます。海水にはゴミもあるので、ろ過装置がついているのですが、これが軽石で詰まりオーバーヒートを起こすため、船舶の運航ができないのです。そこで、ろ過装置の工夫によって運航ができるようにしているようです。
船舶は移動できますが、海水を冷却水として使用している設備に原子力発電所があります。当然、塵芥の除去装置やろ過装置がついているのですが、何かトラブルが起きれば重大災害に繋がるため、原子力規制委員会などが対応しているそうです。
軽石は、時間はよく分かりませんが、漂っている間にいずれは砕けて小さな粒子となり沈んでいくと思われます。
■軽石の除去
国土交通省、水産庁、関係団体、研究機関が協力して、「漂流軽石回収技術検討ワーキンググループ」を設置し、軽石回収に関する技術的な知見や留意点等を整理して港湾管理者や漁港管理者等に情報提供をしています。
技術は海上からの回収と陸上からの回収があります。海上からの回収は台船や船舶にポンプや重機を設置したものと砂利採取運搬船があり、陸上からの回収は重機の組み合わせやシルトフェンス(※)と組み合わせたものなどです。
※シルトフェンス
水域での工事で発生する汚濁水の拡散を防止するための汚濁水拡散防止フェンス。フロートで水中に吊られたカーテンで拡散を防止。
このうち海底の砂利を取って運ぶ砂利採取運搬船が注目されています。改良された強力なポンプで軽石を吸い上げると、船の中心部にどんどん軽石が集まっていくというパワフルなものです。
こういった作業は水底の砂利を採取したり浚渫(しゅんせつ)したりする船と同じです。中東ドバイの世界最大の人工島として有名なパームジュメイラもこうした作業船で水底の土砂を吸い込み吐き出し、盛り上げて作ったものです。その圧倒的なパワーが想像できます。
前編では軽石対策として船舶運航の保全に関係した工夫や軽石の除去技術を紹介しました。後編では軽石の使い道について紹介します。