技術資料
やわらかサイエンス
宝石のあれこれ -ルビーとサファイア-(後編)
宝石は古くは権威や富の象徴でしたが、市井の人々をも魅了するものです。宝石は大変貴重で高価なものなので、どうしても金銭に関係した軋轢を生むものです。そのため品質にかかわる様々な問題も多くあります。
宝石の品質は工業製品のような数値的な基準で決まるものではありません。美しさの尺度ともいうべきものでしょうか。そのポイントをいくつか紹介します。
- 宝石と言える鉱物であるかという点
- 結晶ができる環境の違いによる産地固有の美しさや特徴などの個性の状態
- 自然の産物である鉱物としての不完全性や大きさなどの個性や特徴の状態
- 処理の有無、程度、方法などで、何もしない自然のままで美しいものが1番
- カットされ宝石になった時の姿、輝き、濃淡の美しさ
- 大きさ、美しさ、個性などによる希少性
宝石は、その個性や特徴に応じてカットされ研磨されて、さらに輝きを増して美しくなります。
■宝石のカット
宝石のカットは大きく分けると、ファセットカットとカボションカットがあり、その他ビーズ、タンブリング、スフィア(球)、プレート(平板)、ラフカットがあります。
ファセットカットは、多面体カットで、小さな切子面(ファセット)が幾何学的に組み合わされたカットです。ダイヤモンドの輝きを引き出すために生み出されたといわれています。一般的に、透明感のある宝石に多く使われるカットです。ファセットカットの代表的なものにブリリアントカット、ステップカット、ミックスドカットがあります。
ファセットカットの次に多いのはカボションカットです。カボションカットは切子面(ファセット)を持たず、宝石を半球形に磨きあげたカットです。半透明~不透明な宝石に使われることが多いドーム状のカットです。
■磨くだけではない宝石の処理
宝石原石をカットしたり、研磨したりすることは「宝石の処理」には含まれないそうです。宝石の処理とは、宝石の外観または性質を人工的に変え、改善する工程とされています。加熱処理は「宝石の処理」の1つで、その他にもいくつかの方法があります。当然ながら処理の是非や処理を施した宝石の人気不人気があるそうです。
加熱処理
色の改善を目的として、1000℃以上の温度で加熱する方法です。ルビーの場合は電気炉などで1000℃前後・数十時間の加熱処理をします。サファイア(ブルー)の場合は、より高温になる炉を使って1400~1500℃の熱処理をします。
熱処理によって着色の原因となっている不純物に物理的、化学的変化が生じて目的とする色あいに変化させます。またインクルージョンと呼ばれる宝石に含まれるさまざまな内包物が溶解して透明度が改善します。
含侵処理
宝石表面の微細な傷を目立たなくするために屈折率の近いオイルや樹脂を含侵させる方法です。光沢、透明度、色合いなどを変化させます。エメラルドでは一般的な処理方法です。トルコ石やヒスイでも行われているそうです。
ベリリウム拡散加熱処理
宝石表面の発色を別の色に変化させるために、加熱処理の最終段階にクリソベリル粉末を加える方法です。サファイアに用いられます。クリソベリル自体が宝石で、ベリリウムを含有しています。クリソベルの色が変わるタイプがアレキサンドライトです。
ガラス充填処理
宝石の穴や傷を隠蔽するためにガラスを充填する方法です。鉛ガラスがルビーやサファイアに用いられます。
放射線照射処理
電磁波と粒子の照射とがあります。電磁波の照射は、ラジウム塩あるいはコバルト60を使って電子線加速器によりガンマ線を照射して改善する方法です。粒子の照射は、アクセレーターや原子炉などを用いて電子や中性子を照射して改善する方法です。どちらも照射により内部の結晶構造を変化させて色合いを変えるものです。
カラーコーティング処理
ピンクダイヤモンドに用いられる処理方法です。
レーザードリル処理
ダイヤモンドの中に黒い物質がある場合に、レーザー光線で微小な孔をあけて強力な酸を入れて漂白する方法です。
お金持ちだけでなく私たち庶民の日常の生活でも見る、触れる、購入する機会があるが宝石です。そうした様々な人々のニーズに応じたものを提供するために高度な技術が使われている世界でもあります。
宝石のあれこれ ~ ルビーとサファイア ~ は如何でしたでしょうか。
人を魅了してやまない宝石ですが、その奥深さと人の知恵の一端を紹介しました。まだまだ多くの面白い宝石にまつわる物語があることと思います。