技術資料
やわらかサイエンス
宝石のあれこれ -ルビーとサファイア-(前編)
スリランカは紅茶だけでなく宝石の産地でも有名ですが、あるテレビ番組で宝石原石を電気炉で加熱してきれいな色に仕上げる人達を紹介していました。それまで、宝石は地中から掘り出した原石周囲の不純物を取り除いて、デザインに応じた形にカットして研磨して作るものだと思い込んでいました。そのような宝石もあるのですが、ルビーとサファイアでは、加熱処理は珍しいことではないそうです。
今回のやわらかサイエンスは、宝石のルビーとサファイアにまつわるいくつかの話を紹介します。
■ルビーとサファイアは同じ鉱物
宝石の中では、ルビーとサファイアはダイヤモンドと並んで有名です。ルビーは赤色、サファイアは青色の宝石として知られています。この2つの宝石は、鉱物としては「コランダム」という酸化アルミニウム(Al2O3)の結晶鉱物です。漢字では鋼玉と書きます。
自然界では宝石原石に限らず、完全とか純粋とかということはなかなかありません。結晶化が完全でなかったり、成分が純粋でなかったりすることで、結晶の大きさや色合いが違ってきます。その反面、宝石としての欠陥に繋がる場合があります。
純粋なコランダムは無色ですが、微量のクロムが混入するとルビーになり、鉄やチタンが混入するとサファイアになります。微妙に不純なことが宝石としての価値をもたらしているようです。
ところでクラーク数(Clarke number)というものがあります。地球上の地表付近に存在する元素の割合を質量パーセント濃度で示す数値です。コランダムの化学成分である酸化アルミニウムの成分のうち酸素はクラーク数が49.5で1番目に多く、アルミニウムは7.56で3番目のごくあるふれた成分です。サファイアができる鉄やチタンは、4.70で4番目、0.46で10番目です。ルビーができるクロムは0.02で21番目の稀な成分です。
では微妙にクロムなどの金属成分が混じって結晶化したコランダムは、どこでどのようにしてできたものなのでしょうか。ルビーとサファイアは同じ地域でも産出しますが、それぞれ単独で産出する地域もあります。
■ルビーの世界の産地
ルビーの産地は全世界に広がっていますが、地質年代と関係した4つのグループがあります。ルビーの地質的な成因は、相対的にアルカリが多く橄欖岩などを含むアルカリ玄武岩に関係するもの、造山運動によって変形運動を受けて生じた広域変成岩や片麻岩などの変成岩に関係するものなどがあります。産地、地質年代、成因の概略は次の通りです。
グリーンランドでは先住民のイヌイットはルビーの存在を知っていたそうです。世界的に人気のあるルビーはミャンマー産で、「ピジョン・ブラッド」と表現される色合いだそうです。スリランカのルビー産出の歴史は古く、ミャンマー産よりも明るくピンク気味です。そのため加熱処理の歴史も古く、2000年前から加熱処理が行われてきたそうです。
■サファイアの世界の産地
サファイアはブルー、パープル、イエロー、ピンクなどのさまざまな色があります。もともとサファイアは、ギリシャ語の青を意味する言葉が語源だそうです。
ブルーのサファイアの産地は、地質年代と関係した3つのグループがあります。サファイアの地質的な成因は、火成岩に関係するものと変成岩に関係するものがあります。産地、地質年代、成因の概略は次の通りです。
アメリカ自然史博物館にある563.35カラット(ゴルフボールくらいの大きさ)の世界最大級のサファイアはスリランカ産です。スリランカ産のものは、透明度が高く色が淡い感じだそうです。ミャンマー産のサイファイアも人気が高く、「ロイアル・ブルー」と呼ばれる美しい色調だそうです。オーストラリアは、1850年頃のゴールドラッシュの時にサファイアが発見されて以来の産地となっています。暗いブルーの色合いであるため、加熱処理が必要なことが多いそうです。
前編ではルビーとサファイアは同じ鉱物で、産地は広域変成岩やアルカリ玄武岩に関係することを紹介しました。後編では磨くだけではない宝石の処理のあれこれについて紹介します。