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やわらかサイエンス
生命の元素リン -遺伝子から地層まで-(前編)
庭の木にスズメが遊びにやって来ます。雑穀の種を置いておくと一段と賑やかです。遊びや食事が終わった後には、ところどころに白いものが落ちています。スズメたちの糞ですが、これは尿と糞が一緒になったもので、よく見ると白い液体状のものに黒い粒が混じっています。成分は尿酸、アンモニア、リン酸です。
リン酸はリンと酸素の2つの元素からできています。今回はこのリンに注目してみました。リンは生命にとっては無くてはならない、まさに生命の元素と言われています。またリンは鳥と密接な関係があり、地層としても大変ユニークです。今回は、生命の元素リンについて紹介します。
■みんなが知ってる窒素・リン酸・カリ
植物の生育には16の元素が必要とされますが、その中でも窒素、リン酸、カリが最も多く必要とされ、これを「肥料の三要素」と言います。リン酸はリンと酸素が結びついた化合物の名称なので、肥料の元素としての要素は、窒素(N)、リン(P)、カリ(K)です。
それぞれの要素には、次のような大切な働きがあります。
窒素(N):植物の体を作る元素
葉や茎の成長に欠かせない元素で、葉肥え(はごえ)とも呼ばれます。多く与え過ぎると茎が余計に伸び、葉も軟弱になってしまいます。
リン(P):植物が子孫を残すために必要な元素
花つきや実つきを良くする元素です。花肥えや実肥えとも呼ばれます。欠乏すると花つきや実つきが悪くなるので、生育期から花期までに与えると効果的です。
カリ(K):植物が健康的にバランスを保つのに必要な元素
植物体内の新陳代謝を促し、根の発達を良くする元素です。根肥えとも呼ばれ、不足すると光合成が上手くいかず、病害虫の被害を受けやすくなります。
ここでの注目点は、リンは植物が子孫を残すために必要な元素であることです。
■リンは必須元素の変わり者
肥料の三要素だけでなく、生物が生命を維持するために欠かせない元素はもっとたくさんあり、これを必須元素といいます。人間も同じです。必須元素は、12種類の主要元素と16種類の微量元素に分けられます。主要元素は必要とする量が多い元素で、微量元素は必要量が微量な元素です。
リンを除く全ての主要元素は大気、水、海水、岩石の成分として普遍的に多く存在しています。また微量元素にはニッケルや銅などの金属元素もありますが、いずれも微量ですが岩石や海水に普遍的に含まれています。ところがリンは、必要とする量が多い主要元素であるにもかかわらず、普遍的に多くは存在していません。
少し脱線しますが、必須元素は、欠乏すれば欠乏症となり、過剰に摂取すれば過剰症や中毒症状を起こします。その典型がヒ素(As)です。ヒ素は猛毒で、死に至る中毒を引き起こしますが、不足すると体内の酵素活性が低下して体内代謝のバランスが崩れます。
また普通の食生活、自然物の食事を常識的な量と種類だけ食べていれば問題ありませんが、特殊な地域、例えば大陸の内陸部など、海から離れている場所では、海水に多く含まれる成分などで欠乏が生じることがあります。海水はミネラルの宝庫ですから、その点、沿岸部の方が元素の多様性という意味では恵まれています。
ここでの注目点は、リンは必須元素の主要元素にもかかわらず普遍的に多くは存在しないということです。
前編では、リンは植物にとって子孫を残すために必要な元素であり、必須元素の主要元素であるにもかかわらず普遍的に多くは存在しないことを紹介しました。この2つのことが、どのように結びついてくるのでしょうか、中編に続きます。