技術資料
やわらかサイエンス
穴あきダム -防災と環境保全のはざまで-(後編)
ダム建設の中止や見直しに揺れる球磨川水系ですが、日本で初めて撤去されたダムも実は球磨川水系のダムなのです。撤去されたダムは荒瀬ダムといいます。このことからも防災と環境保全のはざまで揺れながら両立に取り組む球磨川水系を伺い知ることができます。
■撤去された荒瀬ダム
荒瀬ダムは水力発電開発を目的として球磨川河口より約20kmの地点に1955年に竣工した重力式越流型コンクリートダムです。老朽化、河川の水質悪化などの理由で撤去が検討され、撤去工事が進められました。
撤去に至るまでには、2002年の撤去の請願と撤去の決定、2003年から2007年までの委員会による検討、2008年の撤去方針の撤回、2010年の撤去方針の再表明、2012年から2018年にかけての撤去工事と、まさに撤去事業は揺れ動きました。
荒瀬ダムでは撤去前の2010年から、その上下流に調査地点を設け、水質、底質、動物、植物、基盤環境、景観について環境モニタリング調査が行われています。撤去工事の進捗に応じて川の水質は改善、水量の増加、みお筋(平時に水が流れる流路、澪筋)の復活、水生生物の生息数の増加、干潟とその生態系の再生、漁獲量の増加などが認められるようになったそうです。しかし2019年の調査ではダムで滞留していた砂礫の排出が終了したためか、撤去の効果が薄れてきたことが確認されたそうです。
荒瀬ダムは撤去されましたが、さらに上流約10kmに瀬戸石ダムがあります。瀬戸石ダムの影響により、長期的には荒瀬ダムの撤去の影響が大きく認めにくい可能性もあります。
治水対策では河川の整備が重要です。決壊を防ぐ堤防の建設や河床の上昇を防止するための堆積した土砂の浚渫などです。ダムについての選択肢は、ダムを選択しないだけでなく環境保全と治水対策を両立できるダムを選択することもあるかもしれません。また一方で既設のダムの撤去という選択もあるかもしれません。
しかし堤防やダムといった技術的な要素だけでは自然の力に勝つことは困難です。やはり氾濫の危険性のある地域には住まない、住まわせないといった土地利用の見直しが最も重要です。これは斜面災害での対策についても同じではないでしょうか。
穴あきダム ー防災と環境保全のはざまでー は如何でしたでしょうか。球磨川水系は川辺川ダムの見直しということだけでなく、ダム撤去という視点でも多くの注目が集まっています。清流球磨川水系にどのような形式の穴あきダムが提案されるのか、どのような評価がなされるのでしょうか。
球磨川は木船によるくま川下りやラフトボートによる球磨川ラフティングが有名です。九州に行った際には球磨川流域まで、足を伸ばしてみては如何でしょうか。