技術資料

やわらかサイエンス

穴あきダム -防災と環境保全のはざまで-(中編)

担当:藤原 靖
2021.02

■日本の穴あきダム

穴あきダムとは、ダムの本体(堤体といいます)の下部に設けた穴によって、洪水を自然調節方式で調節する治水専用ダムのことで「流水型ダム」と言います。平常時は、堤体下部の穴から水が流れて、水の流れを遮ることがありません。洪水時には、水が貯まり、洪水調節が行われるそうです。

日本には完成した穴あきダムが5つあり、工事中あるいは計画中のものがいくつかあります。

流水型ダム-防災と環境の調和に向けて-・池田ほか、技報堂出版、2017より抜粋
流水型ダム-防災と環境の調和に向けて-・池田ほか、技報堂出版、2017より抜粋

■穴あきダムの賛否

水型ダムの特徴は、国土交通省水管理・国土保全局によれば以下の通りです。

流水型ダムは洪水調節専用のダムで、ダムの持つ様々な機能のうち洪水調節機能に特化した目的で建設される常時水を貯める必要のないダムの一形態です。
 治水:洪水時には一時的に洪水を貯留し、下流沿川の洪水被害を軽減します。
 利水:利水機能をもたず、通常時水を貯めません。
 環境:通常時は水を貯めないため、流入水と同じ水質が維持されます。
    上流から流れてきた土砂を全て捕捉するのではなく、流水と同時に土砂が流れます。

・通常時はダムに水を貯めないことや、河床近くに洪水吐や土砂吐を設置することにより、貯水池内でも普通の川の状態が維持され、ダムの上下流における水循環、土砂循環、魚類の移動など、自然に近い物質循環が維持されます。
・貯水池に堆積する土砂の量が軽減できる(通常は概ね100年間の堆砂量を貯水池内に予め確保)ことにより、ダム堤体をコンパクトにでき、建設コストの縮減が可能となります。
・洪水吐や土砂吐が流木や土砂で閉塞しないよう、対策が別途必要となります。

左:益田川ダムの構造 右:浅川ダムの構造
流水型ダムである益田川ダムのパンフレット及び浅川ダムのパンフレットより抜粋
左:益田川ダムの構造
右:浅川ダムの構造(流水型ダムである益田川ダムのパンフレット及び浅川ダムのパンフレットより抜粋)

前述のように、流水型ダムの治水や環境の面での優れた性能が紹介されている一方で、識者によって流水型ダムの問題点についても指摘されています。

特に自然環境の面で3つ指摘されています。1つ目は上下流の水の流れを連続的に維持することができるが、堤体下流側にある水の勢いを減衰させるための下流側の構造が水生生物の往来に支障をきたすというものです。2つ目は豪雨時に増水した水を一時的に貯水するが、貯留水は濁水であるため長期間の濁水の流下が継続し、水生生物への影響を及ぼすというものです。3つ目は、増水などにより流下してきた土砂は、ダムで粗粒の土砂だけが止められ細粒の土砂のみが下流に流出することで、下流の河床が泥質化して水生生物に影響を及ぼすというものです。
また大きな洪水時の危険性として、常用の洪水吐きにはスクリーンで閉塞防止対策がなされているが、その効果は未知数であるため閉塞の危険性が十分に残っているとするものです。

左:下流側上空から見た益田川ダム 右:益田川ダムの減勢工(益田川ダムのパンフレットのパンフレットより抜粋)
左:下流側上空から見た益田川ダム
右:益田川ダムの減勢工(益田川ダムのパンフレットのパンフレットより抜粋)

流水型ダムの歴史は浅く、洪水に対する実例が乏しいのが現状です。問題点として指摘されていることについても技術的に解決される可能性も考えられます。いずれにしてもダムは流域の環境に大きな影響を与えます。川辺川ダムは2009年に中止されましたが、その代替となる治水事業は容易でなかったことも今回の豪雨災害で明らかとなりました。

穴あきダム -防災と環境保全のはざまで- の中編はここまでです。後編では日本で初めて撤去されたダムである荒瀬ダムについて紹介します。防災と環境保全の両立に取り組む球磨川水系を象徴する事業でもあります。

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