技術資料

やわらかサイエンス

燃える地層いろいろ -土瀝青-(後編)

担当:藤原 靖
2019.01

天然アスファルトの用途を紹介する前に、少しアスファルトについての言葉を整理しておきます。

アスファルトには前編で紹介した天然アスファルトと原油を蒸留して製造する石油アスファルトがあります。どちらも原油の中の軽い成分が蒸発して残ったもので、自然環境で生じたものか、工業的なプロセスで生じたものかの違いです。
アスファルトの語源は、ギリシャ語で「倒れないもの、イコール堅くして固定するもの」という意味があるそうです。アスファルトの用途に深い関係があるようです。

ビチューメンという言葉もありますが、これはアスファルトのことです。米国や日本ではアスファルト、欧州ではビチューメンを使うようです。またタールとピッチという言葉もあります。タールはアスファルトの液状のもので、固まったものがピッチです。

コールタールというものもありますが、こちらは、その名前の通りコール(石炭)のタールなので、アスファルトとは外見は似ていますが別物です。

■天然アスファルトは接着剤

人間が道具を作り使う場合には、工夫の過程で、ものとものをくっつけるという要求が出てきます。つまり接着剤が欲しくなるわけです。青森県、秋田県、新潟県の縄文時代の遺跡からはアスファルトが付着した矢じりや土器が発見されています。秋田県や岩手県では100カ所以上でアスファルトが付着した遺物が確認され、土器に入った多量のアスファルトの塊も出土しています。矢や槍などの違った石器とそれを支える棒を固定するためや石器の補修などに使われたと考えられています。接着による補修だけでなく、水漏れ防止といった目的もあったと考えられています。

アスファルト付着遺物の分布図

海外では、現在のイラク地方であるチグリス・ユーフラテス川流域に栄えたメソポタミア文明で、アスファルトは既に使われていました。紀元前2600年ごろのシュメールの古代都市ウルの遺跡(イラク共和国)から出土した工芸品であるウルのスタンダードにアスファルトが使われています。横長のモザイク装飾の箱ですが、前後左右それぞれの面に青いラピスラズリ、赤い石、貝殻などがアスファルトで固められています。またこの頃の主要な建材であるレンガは目地をアスファルトで固めて、大きな建物や塔を作っていました。道にもアスファルトで固めたレンガが使われていたようです。アスファルトの持つ接着力で、バベルの塔の建設も可能にしたのでしょうか。

左:大英博物館のウルのスタンダード(パンフレット画像)、右:現在の神田昌平橋の画像

■天然アスファルトで道路の舗装始まる

アスファルトは道路舗装では欠かせない材料として活躍しています。道路舗装では、アスファルトに加え、粗骨材、細骨材、フィラー(充填物)を混合したものが使われます。一定の期間が経ち舗装のやり直しなどが行われる場合には、古いものは回収されリサイクルされます。再資源化率は98パーセント以上にも達した循環資源の優等生です。

日本初のアスファルト舗装は、1878年(明治11年)に東京の神田昌平橋で施工されました。その時に使われたのは、秋田の豊川の土瀝青200俵だそうです。都内には多くの橋があるので、アスファルト舗装の快適さが注目され普及していったと想像します。

ところで昌平橋という名前の橋は、江戸時代には木で作られ、火災や洪水で落橋して何度も架け替えられたようです。アスファルト舗装された橋は鉄橋ですが、1923年に鉄筋コンクリート製アーチ橋として架け替えられ、現在に至っています。

長崎市のグラバー園にもグラバー商会に勤め、ホーム・リンガー商会を設立したフレデリック・リンガーが作らせたとされるアスファルト舗装の歩道があります。心臓病であったリンガー氏が、人力車の通行を楽にするためとされています。江戸時代の幕末期に、いったいどこからアスファルトを調達したのでしょうか。秋田の豊川でしょうか、どこか外国からでしょうか。

アスファルト舗装は、神田昌平橋で使われて以来、さまざまな技術開発が進み、時代の要求とともに発達してきましたが、今なおも道路舗装の主役として活躍しています。

グラバー園のアスファルト舗装画像とその説明

■その他にも使われます

その他の用途としては防水材、防腐材、緩衝材などです。防水材は舗装や接着剤から類推できる利用法です。防腐材も水を遮断して腐りにくくするという点で関連します。エジプトのミイラの保存用にアスファルトが使われていたそうです。緩衝材は振動や騒音を緩和するという目的での使用です。絶縁材としても使用されています。

防水材としては水を堰き止めるダムに使うことがあります。ダムの堤(つつみ)を石で積み上げて作る方式にロックフィルダムというものがあります。その中の1つの形式に、普通は堤の中心部の材料に粘土などの水を通しにくいものを使いますが、粘土が手に入らない場所では堤の表面をアスファルトで覆って遮水するアスファルトフェーシングダムというものがあります。非常に珍しいダムですが。

燃える地層 -土瀝青- は如何でしたでしょうか。土瀝青を最初に発見した人は何を思ったのでしょうか。黒くて不思議なものだったことでしょう。松明のように火をつけて灯りのように使っていたかもしれません。あるいは儀式用に祭壇で燃やしていたのでしょうか。接着剤に利用する時にもいろいろ工夫して接着性能をあげたことでしょう。何か古代人の生活の様子を想像できますね。


※資料等最終参照日:2019年1月

ページの先頭にもどる