技術資料
やわらかサイエンス
燃える地層いろいろ -土瀝青-(前編)
今回は燃える地層を紹介します。普通は地層が燃えることはないのですが、燃える元素である炭素が多い地層では燃えることがあります。
落葉落枝が分解してできた森林の土の一番上の層、腐葉土層あるいはリッター層と呼ばれていますが、森林火災などでは樹木だけでなく、この表土も燃えます。熱帯雨林の火災や米国のカルフォルニアの山火事などのニュース報道で目にしたことがあると思います。
今回は森林の落葉落枝の層ではなく、燃料にもなるような燃える地層の話です。まずは土瀝青(どれきせい)という天然のアスファルトについて紹介します。
■土瀝青 天然アスファルト
土瀝青(どれきせい)という言葉をご存知ですか。瀝青とはアスファルトのことで、土瀝青は天然のアスファルトのことです。わが国では日本書紀に天智天皇の即位式に「燃える土」が献上されたという天然アスファルトについての記録があるそうです。献上のために運ぶ様子を描いた作品に、明治・大正期の歴史画家である小堀鞆音(こぼりともと)の「燃土燃水献上図」があります。木箱に入れたものと大きな瓶に入れたものを一本の棒に吊るし、二人の男性が前後から担いで運んでいます。木箱の方が「燃土」と思われます。
秋田県の男鹿半島の南の根本付近、高校野球で有名な金足農業高校にも近い、潟上市昭和豊川付近に国内では非常に珍しい天然アスファルトの産地がありました。ここは石油が産出する豊川油田と呼ばれる油田でもあります。日本の油田は、秋田県から新潟県にかけての日本海側に集中して分布していますが、北海道の勇払平野にもあります。しかし、天然アスファルトの産地として豊川は非常に貴重な場所です。
天然アスファルトはアスファルトの池として地層にできています。2万~4万年前の氷河期にできた地層の割れ目を重質油が噴出して流れ出たものが溜まって、アスファルトの池になったと考えられています。アスファルトの池ではナウマン象やイノシシの化石が見つかっています。
豊川油田は、1883年(明治15年)から石油開発の調査が行われ、1913年(大正2年)油田の採掘に成功しました。最盛期には年間86,800キロリットルを産出した有数の油田地帯でした。
2007年には経済産業省が始めた近代化産業遺産の認定のうち「新潟など関東甲信越地域で始まった我が国近代石油産業の歩みを物語る近代化産業遺産群」の1つとして選ばれています。秋田は関東甲信越ではありませんが。また2009年には「日本の地質百選」にも選定されています。
天然アスファルトが地表で見られる場所は世界中にあります。米国、ベネズエラ、ペルー、イラク、イラン、ロシア、ポーランドにあり、どれも石油が出る場所に近いそうです。
タールピットと呼ばれる大規模なアスファルトの池もあり、世界最大のものは、トリニダード・トバゴのトリニダード島のピッチ湖です。アスファルトの中からはマンモスなどの動物の遺骸が見つかっています。
大都市にあるものでは、米国のカリフォルニア州ロサンゼルス市にある天然のアスファルトの池「ラ・ブレア・タールピット」が有名です。ブレアとはスペイン語でアスファルト(タール)のことです。大小さまざまな池が100カ所くらいあり、ハンコック公園として博物館を含めて整備されています。ロサンゼルスの観光エリアに隣接していますので、是非観光旅行などで訪れた際にはタールピットにも寄ってみて下さい。
ラ・ブレア・タールピットは非常に多くの化石が発見されることで有名です。草食動物から捕食動物まで650種類以上で350万点にも及ぶそうです。水を飲みに来た動物がアスファルトに足を取られて埋まってできたと考えられています。
燃える地層いろいろ -土瀝青- の前編はここまでです。後編は天然アスファルトの用途をいろいろ見ていきましょう。
※資料等最終参照日:2018年12月