技術資料
やわらかサイエンス
地層のことわざもいろいろ(後編)
岩、石、土といった地層に由来する言葉を使った故事・ことわざで、石のつくものの続きと土のつくものです。
■岩という言葉のあるもの(続き)
石(こく)という容積の単位として
石(こく)は、日本では米や船の容積の単位です。米の一石は、千合、百升、十斗に相当します。昔は米が主食で経済の基盤でしたので、米の量を基準にしていました。成人の米の消費量は1食に米一合を3回、1日三合で計算します。したがって千合である一石は、ほぼ1人の1年分の消費量になります。
- 朝寝八石の損(あさねはちこくのそん)
朝寝坊をすると八石の損をするという意味です。朝寝坊をすると損をすることが多いので気をつけようということです。
八石とは8人の1年分の量ですから、かなり大きな損ですね。
- 升を以って石を量る(ますをもってこくをはかる)
一升の升(ます)で、大きな単位である石を量ることはできないという意味です。小さな器で大きなものは計れないということで、小人物は大人物を理解できないというたとえです。
小人物でなくてもスケールの大きい人物のことは、なかなか理解できないことが多いかもしれませんね。
- 千石取れば万石羨む(せんごくとればまんごくうらやむ)
千石取りになれば、次は万石取りを羨むという意味です。人間の欲望は次から次へと果てしなく、きりがないというです。
いつの時代でも、誰にでも通じる人間の性(さが)について的を得た言葉ですね。
- 千石万石も米五合(せんごくまんごくもこめごごう)
千石や万石という大きな俸禄を取っている人でも、せいぜい1日に食べる米の量は五合が限界です。巨万の富があっても、人は必要なものが必要な量だけあればこと足りるという意味で使われます。
現在ではお米を食べることが少ないので、1日五合でも大変多いご飯の量ですね。
■土という言葉のあるもの
土という言葉が出て来る故事やことわざでは、石とはかなり様相が違ってきます。土も石もありふれたものということでは共通します。ところが石が硬くて強いものであったのと反対に、土は弱いものとして扱われます。また土独特なものとして、植物を育てるものとして出てきます。その他、土のつく場所の名前としてや季節の一つである土用(どよう)などが使われています。
価値のないもの
- 泰山は土壌を譲らず(たいざんはどじょうをゆずらず)
泰山という名山は、どのような価値のない土でも受け入れるという意味です。大きな人物というのは、小さな意見でも受け入れて、成功に導くことができるということです。
受け入れることはできても、なかなか成功に導くまでは難しいことです。
- 土一升に金一升(つちいっしょうにかねいっしょう)
土一升が金一升に相当するという意味です。土地の値段が非常に高い意味で使われます。
東京都中央区銀座5丁目銀座中央通が、最高路線価だそうです。紙幣を並べるような高額な土地です。
- 高みに土盛る(たかみにつちもる)
高くなっている場所に、さらに土を盛って高くするという意味です。十分に高くなっている場所に無意味に土を盛り上げるような無駄なことです。
土木では、盛土高さが15mを超える高さの高盛土(たかもりど)というのがありますが、かなり高度な土木技術が求められます。
- 土に灸(つちにきゅう)
石に灸をすえると同じ意味です。いくらやっても効き目のないことです。
ごみやほこりのようなもの
- 捲土重来(けんどちょうらい)
砂ぼこりを巻き上げる勢いで、重ねてやって来るの意味です。一度失敗したり負けたりした人が、今度は勢力を盛り返して再びやって来るという場合に使われます。
選挙で再起を期すときに、よく「捲土重来を期します。」という言葉を聞きます。
- 土積もりて山となる(つちつもりてやまとなる)
砂ぼこりを巻き上げる勢いで、重ねてやって来るの意味です。一度失敗したり負けたりした人が、今度は勢力を盛り返して再びやって来るという場合に使われます。
土よりも塵の方が一般的ですね。
弱いもの
- 土仏の水遊び(つちぼとけのみずあそび)
土で作られた仏が水遊びをしたら溶けてしまうので危険だという意味です。無謀なことをして自ら身を滅ぼすことです。
土仏も泥船のように徐々に溶けていきそうですね。
植物を育てるもの
- 西瓜は土で作れ南瓜は手で作れ(すいかはつちでつくれかぼちゃはてでつくれ)
西瓜は良い土で作ることが大事で、南瓜は人の世話焼きで作ることが大事だという意味です。それぞれの作物の上手な作り方のコツを表現したものです。
スイカもカボチャもつるが伸びて地面に実ができる似たものですが、それぞれにコツがあるのですね。
場所を示すことば
- 門松は冥土の旅の一里塚(かどまつはめいどのたびのいちりづか)
正月に飾る門松はめでたいものであるが、飾るたびに年数を重ねるので、あの世である冥土に向かって行く街道の道標である一里塚のようなものという意味です。
- 白髪は冥土の使い(しらがはめいどのつかい)
白髪が生えてくるのは年齢を重ねて死に近づいていくということなので、死後に行くあの世である冥土からの迎えの使者のようなものという意味です。
- 冥土の道には王なし(めいどのみちにはおうなし)
死んであの世である冥土に行くということは、この世では王様であっても誰であっても等しく同じであるという意味です。
冥土という言葉も日常では使われなくなりました。時代劇では、悪役のセリフで「冥土の土産に聞かせてやる。」というフレーズを聞きます。
- 率土の浜(そっとのひん)
陸地の果てのことです。
昔の人は、陸地の果てとは、どのようなところを想像していたのでしょうか。
- 土壇場(どたんば)
刑罰の中の斬首という死刑が行われる場所のことです。人の一生が終わる最後の瞬間という意味で使われます。
処刑場の怖い言葉ですね。
土用
土用(どよう)という季節を用いる故事・ことわざです。土用は、万物は木・火・土・金・水の5種類の元素からなるという五行に由来する暦のうちの季節の移り変りをより適確に掴むために設けられた、特別な暦日(雑節といいます)のことです。土用のほかに、私たちの生活では、節分、彼岸、八十八夜、入梅などの暦日に馴染みがあります。
- 寒に帷子、土用の布子(かんにかたびら、どようにぬのこ)
寒い時期に夏物の衣類である裏地の無い単衣の帷子を着て、土用という暑い時期に木綿の綿入れの布子を着るのは逆さまであるという意味です。物事が逆さまである場合に使われます。
- 雪駄の土用干し(せったのどようぼし)
雪駄という履物を土用という暑い時期に干すと反り返ってしまうという意味です。偉そうに反り返って歩く人を揶揄する意味で使われます。
- 土用の筍(どようのたけのこ)
暑い時期である土用に出てきた筍はきちんとした竹にならないという意味です。役に立たないものの意味で使われます。
土用は今では、土用の丑の日と鰻とのセットで親しまれている言葉ですね。土用波も時々聞きますが、台風の影響を受けた夏の終わりの大きな波のことです。
今回は、岩、石、土といった地層に由来する言葉を使った故事・ことわざを紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。故事・ことわざを見る目も少し変わりましたでしょうか。
※資料等最終参照日:2018年1月