技術資料

やわらかサイエンス

石灰もいろいろ(中編)

担当:藤原 靖
2017.09

中編の始めは、前編で紹介した「石灰とその仲間たちの活躍」の続きからです。

■石灰とその仲間たちの活躍(続き)

焼いて

石灰岩を焼いて加工します。これが2番目の大きな用途で、その代表がセメントです。焼いてものを作ることを焼成(しょうせい)といいます。セメントの焼成では、石灰岩、粘土、珪石(石英が主な鉱石)、スラグなどをキルンと呼ばれる巨大な回転窯に入れて焼きます。できあがったクリンカーと呼ばれる塊を砕いて、粉にしたものがセメントです。

セメントは様々な建設工事で使われ、私たちの生活に密着した材料です。また、粘土、珪石の代わりの材料として汚染土壌を使ったり、後で紹介する製鉄の副産物であるスラグを使うなど、未利用資源の有効活用の点でも大きな役割を果しています。

石灰岩だけを焼くと生石灰(せいせっかい、きせっかい)という製品が、生石灰に水を加えると消石灰(しょうせっかい)という製品ができます。

石灰岩を焼いたり、さらに水と混ぜたりして変化するイメージ

生石灰は乾燥剤や殺虫剤などに使用されるほかに、水を加えると高温を発生するので、弁当や日本酒を温める仕組みにも使われています。牛タン弁当などの駅弁に加熱式というものがあります。付属のヒモを引くと水が生石灰に混ざり、高温の蒸気が発生して加熱ができます。日本酒には「燗番娘」というお燗機能付きのものがあり、夜桜見物で活躍しましたが、現在は残念ながら生産されていないようです。

石灰岩から製品を作るものではありませんが、石灰岩を加えて加熱して他の製品を作る用途があります。それは製鉄で、石灰岩の用途として大きいものです。石灰岩は、製鉄のために、高炉(こうろ)に鉄鉱石とコークスとともに投入されます。鉄鉱石には、シリカ(二酸化ケイ素(SIO2))やアルミナ(酸化アルミニウム(Al2O3))といった不純物が含まれます。高炉に投入された石灰石は、これらの不純物と化合してスラグという塊を作ることで、不純物を分離除去することができます。スラグは、セメントを作る材料としても紹介しました。高炉でできた鉄は、銑鉄(せんてつ)といい、鉄のベーシックな製品です。

銑鉄をさらに鉄としての性能や加工性を高めるために鋼(はがね)にします。そこでは、銑鉄に含まれる炭素、リン、イオウなどの不純物を除去するために、生石灰を加えて精錬をします。

水と混ぜ合わされて

消石灰は古くからよく使われている製品です。その代表が漆喰(しっくい)です。漆喰はピラミッドの時代から使われています。消石灰は石灰岩を焼いて作った生石灰に水を混ぜて作ったものです。これに植物の繊維や海藻からとった糊と水を混ぜて、塗り壁材として使います。乾燥すると固まりますが、空気中の二酸化炭素を徐々に吸収して、炭酸カルシウムになる過程で、さらに硬くなり丈夫になります。

漆喰の白壁は何と言ってもお城です。その代表が白鷺城として知られている姫路城です。平成の大修理として2009年から5年半に及ぶ改修で一段と白く蘇りました。姫路城の漆喰は、使う場所によって6種類の配合のものが使い分けられているそうです。

漆喰を塗る作業には、鏝(こて)と呼ばれる道具が使われます。この鏝を使って漆喰の壁にレリーフを作り、彩色している技法があり、これを鏝絵(こてえ)と言います。財を成した豪商が土蔵や漆喰壁の家屋を作る際に、お金持ちの象徴として外壁の装飾に鏝絵を施しました。

漆喰の白壁、城郭の漆喰、西洋の漆喰のレリーフのイメージ

■石灰岩が作るユニークな地形

石灰岩が作る地形は大変ユニークで、その代表がカルスト地形です。ドイツ人がスロベニア(イタリアやオーストリアの隣国)のクラス地方の研究を熱心にしていたので、クラスのドイツ語読みのカルストが一般的になったそうです。

石灰岩は水にわずかに溶けるため、石灰岩の地面は長い時間をかけて水により侵食されることでドリーネと呼ばれる穴ができます。穴はすり鉢状で、直径は数メートルから数百メートル、深さは浅いものから100mになるものまであるそうです。穴は徐々に大きくなったり、隣の穴と繋がったりしていきます。

カルスト台地と鍾乳洞の模式図

カルスト地形は、土壌ができにくく雨水が溜まりにくくて樹木が育たないため、草原の風景です。山口県の秋吉台、福岡県の平尾台、四国カルストが有名で、天然記念物や国定公園に指定され、観光地となっています。

海外では、中国の桂林が有名です。川の流域に石灰岩層が溶かされてできた塔状の峰が多数みられ、風光明媚な場所です。石灰岩は4億~3億年前にできたもので、厚さは3,000メートル以上にわたっているそうです。この石灰岩地帯は、桂林からベトナム北部まで続き、ベトナムではハロン湾に塔状の峰が、彫刻作品のような島々の景観を見せています。石灰岩台地が沈み、侵食作用がさらに進んで、現在の姿となったそうです。

一方、地下の石灰岩も水により侵食され、地下に複雑な空洞のある地形を作ります。これが鍾乳洞(しょうにゅうどう)あるいは石灰洞(せっかいどう)です。鍾乳洞の中には石灰岩が溶けてできた成分が沈澱などにより塊となることがあります。塊は、鍾乳洞の天井から垂れ下がるようにしてできるものを鍾乳石、地面から生えるように伸びるものを石筍(せきじゅん)といいます。

鍾乳洞は北海道から沖縄に至るまでたくさんあります。天然記念物に指定されて、多くは観光地となっています。中には、土器などが発見される場所もあり、古くから信仰の場としても利用されてきたそうです。沖縄の鍾乳洞では、特に旧石器時代の人骨がたくさん発見されています。旧石器時代といえば、壁画で有名なアルタミラ洞窟も鍾乳洞です。

中国桂林の風景、ベトナムハロン湾の風景

中編はここまでです。後編は、「石灰岩と地下水」、「石灰岩と温暖化」について紹介します。

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