技術資料

やわらかサイエンス

砂もいろいろ(前編)

担当:藤原 靖
2017.01

今回は砂の話です。砂は砂浜や公園などで普段から目にすることができます。また砂は、砂がついた言葉や表現もたくさんあるため、身近に感じられますが、これでなかなか奥が深いのです。

砂の標本、砂時計、公園の砂場、ファンデーションのイメージ

まず、「これは砂だ。」と決めてしまう根拠というか尺度は何でしょうか。実は、砂はその粒の大きさによって「砂」と決めています。

砂の仲間には、岩、礫(れき)、石、土、泥、シルト、粘土があり、これらは大きさで名前が違います。岩は非常に大きな岩石の塊です。その次が手で抱えるくらい、あるいは握ったり摘まんだりできる大きさのものが礫や石でしょうか。土、泥、粘土はもっと粒の細かいものです。シルトという言葉はあまり馴染みがありませんね。では、粒の大きさでの分け方について見てみましょう。

土の科学の分野では、2~0.02ミリメートルの粒の大きさのものが砂で、これを粗砂と細砂に分けます。2ミリメートルより大きなものは礫、0.02ミリメートルより小さいものはシルトと呼びます。ここで、シルトの正体が分かりました。シルトは0.02~0.002ミリメートルの大きさなので、砂より小さく粘土より大きい粒のことです。ところで、粘土は0.002ミリメートルより小さいものです。

砂を指の先で擦り合わせるとザラザラします。シルトは擦り合せると、ザラザラ感を微妙に感じます。粘土は全くスベスベしています。化粧品のファンデーションの粒子が粘土の粒の大きさです。実際、ファンデーションには粘土が配合されており、中には100%天然粘土のクレイファンデーションというものもあります。

地質の分野では、砂は2~0.0625(1/16)ミリメートルの粒の大きさで、これを極粗砂、粗粒砂、中粒砂、細砂、微粒砂に分けます。土の建設技術の分野では、砂は2~0.075ミリメートルの粒の大きさで、さらに粗砂、中砂、細砂に分けます。

先ほどの土、泥、粘土ですが、土は砂、シルト、粘土の混ざりあったもの、泥はシルトと粘土の混じり合ったもの、粘土はズバリ粘土です。泥パックの泥は、ファンデーションと同じスベスベの粘土です。

砂の大きさの分け方を示した図

■砂の動き

砂の正体が分かったところで、最初に砂の動き方について見てみましょう。砂の動きは、ウォークアンドジャンプです。1ミリメートルの砂粒は、地上1メートルの高さの風速で、秒速10メートルよりも風が強い時に地表をコロコロと歩き始めます。秒速10メートル とは、吊るした旗が開いてたなびき、木々の枝が絶えず動くくらいの風の強さです。もっと小さな砂粒は、秒速5メートルくらいで歩き始めます。秒速5メートルは、顔に風を感じ、木々の葉が絶えず動くくらいの風の強さです。

砂粒は、表面をコロコロと這うよう動くため、これを表面匍行(ひょうめんほこう)と言います。また砂粒は一旦動き始めると地表の凹凸をきっかけにして、そこで跳ね飛んで移動します。これを跳躍(ちょうやく)と言います。風の強い日に砂浜で、顔に砂が当たったことはありませんか。ちょうど跳躍した砂粒が顔を直撃したのです。

風で動く砂粒の模式図、黄砂の3つの故郷を示す図

では、砂より大きい礫はどうでしょうか。当然ですが、礫は大きくて重いので、風では動きません。一方、砂より小さなシルトや粘土はどうでしょうか。こちらは、ジャンプでなくフライです。シルトや粘土は一気に浮遊してしまいます。

砂はウォークアンドジャンプのため、行動範囲が限定され、風で吹き溜まって砂丘ができます。動かない礫や浮遊するシルトや粘土では,礫丘や粘土丘はできません。また砂の粒の大きさの違いによって動き方が変わるため、粒が揃った砂の吹き溜まりの地形ができあがります。できた地形も一時的で、風が強いと徐々に移動します。砂丘が移動して道路や集落を埋めたりすることもあります。

そこで、砂の移動を防止するため、草方格(そうほうかく)と呼ばれる格子状にワラを埋め込んだ丈の低い柵のような物を作ります。これは砂独特のコロコロ歩きとジャンプの動きに対応したものです。草方格の材料には、板やシートのように風を通さないものは向かないそうです。

砂の表面には、風の強さや向きと砂独特の動きによって、様々な文様ができます。砂漠や砂丘の朝夕の表情として映像で紹介される美しい風紋です。

草の移動を防止する草方格、砂浜の風紋のイメージ

砂より粒が小さい場合には浮遊すると紹介しましたが、その典型が黄砂です。黄砂は中国の黄土高原などの乾燥地帯から偏西風にのってやって来ます。黄土高原は、「やわらかサイエンス むきとゆうきで色いろいろ(後編)(2016.08)」で紹介した黄土色(おうどいろ)の岩絵の具の故郷です。

空飛ぶ黄砂は、上空4000メートルまでにも達し、1000キロメートル以上の距離を浮遊して海を渡り日本に飛んできます。この粒子は雨の核になると言われていますが、酸性雨になる成分を途中で拾って来て問題になっています。一方、黄砂は日本海にも舞い落ちて、プランクトンにミネラル分を供給するなど、海の生態系にも大きな影響を与えると言われています。黄砂の粒子には、石英や長石などの造岩鉱物や雲母、カオリナイト、緑泥石(りょくでいせき)などの粘土鉱物が多く含まれています。日本列島にたどり着く黄砂の粒径は、直径4マイクロメートル(1000分の4ミリメートル)のものが一番多いそうです。「やわらかサイエンス 春の使い -黄砂と地球環境の関係-(2007.05)」でも黄砂を紹介していますのでご覧ください。

■砂の色

砂色(すないろ)という色があります。黄色がかった灰色で、象牙色やベージュ色に近い色です。しかし実際の砂の色はもっと多彩です。

砂の色は砂の素材と関係があります。では、砂は何からできているでしょうか。砂の多くは岩石が砕けて小さくなったものです。長い時間をかけて砕け、だんだんと丸くなるため、もともと硬い鉱物が、砂として残ります。したがって砂漠や砂丘などの砂は、大部分が石英であることが多いそうです。この石英の砂の色が典型的な砂色になります。サハラ砂漠の砂のように石英が酸化した鉄で赤く着色されていることもよくあります。

砂には溶岩などが砕けてできたものもあります。溶岩は玄武岩(げんぶがん)なので真っ黒です。溶岩が砕けてできた砂粒も黒く、これらの砂が集まった砂浜は黒い砂浜となります。ハワイ島の黒砂海岸が有名ですが、湘南海岸の砂も黒っぽいことで知られています。これは富士山の玄武岩などの黒色の岩片(がんぺん)や輝石(きせき)や磁鉄鉱(じてっこう)といった黒色の鉱物が多く含まれるためです。

砂の素材が岩石ではないものもあります。沖縄など、サンゴ礁のある海の砂浜の砂です。こちらはサンゴや貝殻が砕けたものです。その中でも沖縄の星砂は、特に有孔虫の骨格が打ち寄せて溜まったものです。トゲトゲやイガイガの形ですが、およその直径は1ミリメートルですので、まさに砂のサイズにぴったりです。

ハワイ島の玄武岩(溶岩)の砂浜、沖縄のサンゴの砂浜の画像

前編はここまでです。後編は、砂で描くアート、社会で活躍する砂たち、砂のある風景です。

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