技術資料
やわらかサイエンス
塩からさもいろいろ(後編)
前編では塩辛い土の性質やでき方について紹介しました。後編では塩辛い土の直し方や番外編として役立つ塩辛い土の話を紹介します。
では、塩辛い土になってしまったらどのようにして直すのでしょうか。代表的な方法は、前編のビニールハウスで紹介した雨水で洗い流す方法と同じです。地下水と繋がらないように、水の量に気をつけて水撒きを繰り返すと塩分は徐々に下に移動してくれます。この方法はリーチングと呼ばれています。
洗い流す前にカルシウム系の改良材を加えるのが効果的です。ソーダ質土壌を直す場合には石膏(せっこう)を混ぜます。土に石膏を加えて混ぜると、土の粒子に電気的にくっついているナトリウムイオンはカルシウムイオンと交代します。交代して自由になったナトリウムイオンは、水で簡単に洗い出すことができます。石膏には硫酸イオンも含まれているので、硫酸イオンとカルシウムイオンやマグネシムイオンがくっついて水に溶けにくくなり、土の中の水の塩分濃度が下がる効果も期待できます。
津波により塩害を起こした水田の除塩方法でも、まず、石灰などのカルシウムを農地に入れて混ぜて、弾丸暗渠(だんがんあきょ)を作って排水しやすい工夫をしてから、真水で繰り返し洗い流す方法が推奨されています。弾丸暗渠とは、トラクターなどを使って地中で弾丸のような鉄の塊を引っ張り回して作った大きなモグラの穴のような排水穴のことです。
土木的な方法では、土の下に砂利の層を敷く方法があります。砂利の層が地下水との間にあると地表と地下水とが毛細管で繋がることはありません。塩分の多い地下水の上昇を防止することができます。このような毛細管を切るための砂利の層をキャピラリーバリア(毛細管のカベ)と言います。
古墳でも石室の上の盛土に砂利の層を挟んでいることがあります。盛土に浸み込んだ雨水は、砂利の層で毛細管が切れるため、砂利の層の手前で周囲を徐々に下に移動します。雨水の石室への浸み込みを防ぎ、石室内を乾燥した状態に保つ古代人の工夫だと考えられています。
最後は塩辛い土の番外編で、最初は塩田の話です。塩田は海水から塩を作るための施設です。塩田は海浜に、海水が染み込んでしまわないように不透水層の上に砂を盛土して作ります。この砂の層に海水を撒いては乾かすことを繰り返して、塩辛い土を作って塩を濃縮させます。このようにして海水を濃縮したものを鹹水(かんすい)と言います。
この方法は揚浜式(あげはましき)塩田と呼ばれるものです。海水を撒くのが大変なので、満潮時に砂の層に海水が入って来るように改良したものが入浜式(いりはましき)塩田です。両方とも工業的な塩類集積土壌作りと言えます。入浜式塩田も昭和の中頃から流下式塩田に変わり、現在ではイオン交換膜製塩法になっています。
次は建築分野の三和土(たたき)です。木や畳で仕上げていない床を土間と言います。土間のなかでも、特に土で仕上げたものが三和土です。最近では古民家などの日本家屋を宿場町などの街並みとともに保存している観光地があります。このような古民家の入口部分、炊事場、風呂場、通路、作業場などで三和土を見ることができます。
三和土は、粘土分の多い土に塩からとったニガリという、にがい成分を混ぜて、丸太のような道具でトントンと叩いて土を締めて堅くしたものです。ニガリは、豆腐を固める時の必需品でもあり、塩化マグネシウムのことです。アスファルト舗装が普及していない時代には、道路にニガリを撒いて路面を固くしたそうです。
土の突き固め試験という実験でも、塩分の多い方が同じ水分でも土は密に締まり、その中でも塩化ナトリウムが特に一番であることが確かめられています。前編で紹介したように塩類集積土壌は固くて、ソーダ質土壌がより固いことと一致します。
相撲の土俵も荒木田(あらきだ)という壁土用の粘土分の多い土に天然塩を入れ、叩いて固くして作るので三和土の仲間です。
番外編の最後は食べる塩辛い土です。塩辛い土は植物には苦手ですが、植物を食べる草食動物にとっては必需品です。草を食べるとカリウムを摂ることはできますが、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムという必須元素(ひっすげんそ)が不足します。そこで塩分をたくさん含む土や岩を舐めて塩分不足を解消します。塩辛い土や岩がある場所は限られるので、草食動物にとっては秘密の場所です。
最近ではシカが融雪剤を舐めて塩分不足の解消を図ることができるため、かえって生息数が増えている、道路に舐めに来るため交通事故を起こすとも言われています。牧場では牛がいつでも塩なめできるように塩の塊をおいています。肉食動物は、食べた草食動物の肉から塩分とっているので特に欲しがらないそうです。
私たちは塩分控えめの食事が一般化しています。塩分を摂り過ぎると良くないですが、少ないと生物にとって大変なことになります。土にとっても塩分が多いか少ないかは非常に大切なことです。
生活の中で塩類集積土壌を見かけることはありませんが、車窓から見るビニールハウスが点在する風景や古民家などを訪れた際には、この塩辛い土の話を思い出してみて下さい。旅の印象も塩味が効いて一味違うかもしれません。