技術資料
やわらかサイエンス
EARTH から生れるART
8月も終わりに近づき、間もなく季節が夏から秋へと変わります。秋と言えば読書の秋、食欲の秋、などと様々に表現されますが、ここでは芸術の秋をとりあげ、絵画と地球の産物、鉱物の古くて美しい関係をお話しましょう。
その昔、人々は、大変鮮やかな赤、黄色、青、緑といった色をもつ鉱物を粉にして、染料、あるいは顔料として使用していました。しかし、きれいな花には棘がある、とよく言われるように、きれいな石には毒がある、ともいえます。例えば、鶏冠石は大変鮮やかなオレンジ~朱色、雄黄は黄色です。
そしてどちらともまるでキャンディーのように美しいのです。だからといって、口に入れてはいけません。直に手で触れてしまった場合は、きちんと手を洗うことを忘れてはいけません。鶏冠石と雄黄には砒素が含まれているのです。以下に、いくつか有毒な成分を含有する鉱物名をあげてみましょう。
- オレンジ色→鶏冠石(realgar):砒素
- 黄色→雄黄(orpiment): 砒素
- 朱色→辰砂(cinnabar): 水銀
- シルバーホワイト→鉛(lead)+酢:鉛
小学校での美術の授業中に、好奇心旺盛な生徒が絵の具をなめて先生に叱られていることがありますが、絵の具をなめることが勧められない行為であるのは、絵の具には顔料として有毒な鉱物が使用されていることがあるからです。
現在では、これら鉱物の含有する有毒成分が知られているため、児童用の絵の具には毒性を持つ顔料は使用されていません。一安心ですね。だからといって、絵の具を食べても安全、という訳ではありません。
児童用の絵の具とは異なり、美術の専門家が使う絵の具の中には、上記に述べたような毒性のある成分を含んだ鉱物が顔料として使用され、市場で売られているということです。専門店で特別に購入した絵の具が手元にあれば、その成分を確認してみましょう。
そして、鉱物図鑑を開いて、含有されている鉱物、そしてその化学成分を調べてみてください。「白の絵の具は白亜(灰白色の軟土質の石灰岩)でできているから平気だけれど、朱の絵の具は辰砂で水銀を含んでいるから危険。緑色は孔雀石だから銅・・・」と分別する知識がつくまでは、絵の具はなめないほうが安全ですね。
参考資料
Symes, R.F., and the staff of the Natural History Museum, London, 1988, Rocks and Minerals, Eyewitness Books, Dorling Kindersley, 64pgs.
※最終参照日:2003年8月