技術資料

地質モデリング

12.こぼれ話5~過去の地歴からわかること~

担当:冨永 英治
2022.08

前回と前々回に地質モデルを構築した地層は、相模層群と新規段丘堆積物でした。まさに私たちの生活しているエリアの地盤となっています。
相模層群と新規段丘堆積物の地層区分はどうだったでしょうか?
概ね、箱根や富士火山からの噴出物からのローム層と河川から運ばれてきた堆積層(主に礫層が多い)の繰り返しだったと思います。

過去の地歴は、近未来の起こり得る現象と言えます。つまり、私たちの地盤では、火山の噴出物と河川堆積物の繰り返しの層があるということは、今後も河川と火山の影響を受ける環境下が続くことが考えられます。近年、温暖化の影響で、大型な台風や豪雨など異常気象や箱根火山活動などが懸念されています。
今回モデル化した範囲と結びつけて考えてみますと、水系は1級河川の相模川があり、西側には箱根火山の影響範囲下にあります。普段から、自然災害に直接的な影響を受けるエリアであることを認識することが重要といえます。

モデル化した範囲に含まれている「神奈川県秦野市」に関するこぼれ話を2つほど紹介します。

神奈川県秦野市の横野山王原遺跡では、1707年に富士山の宝永噴火によって人々がどのように対処していたのかが2014年からの調査で明らかになりました。

“天地返し”
農業の用語で、深耕により下層の土を表層の土と入れ替えることを指すそうです。当時の人々は、廃棄溝を掘り、積もった火山灰を下に覆われてしまった耕作土と入れ替えを行っていたようです。しかし、火山灰層は空隙率が大きく保水力が低下しました。そんな環境下でも生産できる葉タバコや落花生が今の秦野の特産になったそうです。

ピーナッツイラスト(仕切り)

“震生湖”
秦野市には、震生湖という湖があります。1923年に関東地震で地すべりが発生し、河川を堰き止めました。その結果、震生湖が誕生しました。千木良ほか(2017)によると、その周辺の地質調査や分析、試験を実施したところ、武蔵野ローム層に属する東京軽石層が分布しています。
その東京軽石層は、強く風化し、粘土鉱物のハロイサイトに富み、構造を乱すと泥濘化する特徴があることから、斜面下部で侵食がされた状態に地震による振動によって地すべりが誘発されたと考えられています。

このエリアは、箱根や富士山による火山活動の影響を受けた地盤で形成されています。防災、減災を考えたとき、もちろん、火山活動そのものに対して警戒する必要がありますが、震生湖のように火山灰層(軽石層)が地すべり面となって新たな災害を引き起こすことも想定する必要がありそうです。
その場合、誘因の原因となりそうな例えば、滑落が起きそうな急傾斜地形かどうか、人工造成などによる斜面下部の切り取りなど、いろいろな視点から考えていく必要があります。

震生湖写真
関東地震(1923年)でできた震生湖
普段は静かなエリアで、紅葉シーズンは木々の紅を水面が映します。

参考資料
震生湖 秦野観光案内ページ
朝日新聞デジタル 企画特集3【神奈川の記憶】(9)秦野の「天地返し」遺跡(2015年12月19日)
・(公財)神奈川考古学財団/現場見学会資料/H30横野山王原遺跡見学会資料
・千木良雅弘、笠間友博、鈴木毅彦、古木宏和(2017):1923年関東地震による震生湖地すべりの地質構造とその意義、京都大学防災研究所年報、第60号B、p.417-426
※最終資料参照日:2022年8月

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