技術資料
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第22回 岩盤中の二次クラック伸展
これまでに、実験結果の分析や理論的検討の解釈として、二次クラックが発生した場合には、これが最大圧縮応力方向に伸長すると考えられることを説明しました。これは、小さな岩石試料を使った実験からの推論ですが、実規模の岩盤でもこのような現象が発生するのでしょうか。
実規模の岩盤でのクラック伸長を調べた例は見当たりませんが、室内でモデル実験を行った例があります。底面摩擦装置を使った実験です。
底面摩擦装置では、2次元モデルを寝かせた状態で、摩擦を持たせたベルトを回転させ、モデル底面に一様な摩擦力を加えます。これにより、ベルト回転方向に物体力が発生し、モデルを寝かせたまま。モデルに重力が作用したと同様の応力状態を作り出すことができます。モデル上面には空気圧を加えることで、摩擦力(物体力)やモデルの側方圧(物体力と直角方向の応力)を変化させることができます。相似側を考慮することで、小さいモデルでも実規模の岩盤変形を再現することができ、1980年~90年代に盛んに実験が行われました。以下に紹介する実験装置や実験結果は、文献「亀田伸裕,西田正,御厨誠司:浅所陥没の発生機構に関する研究(第4報)-底面摩擦法によるモデル解析-,日本鉱業会誌,Vol.99,No.1145,pp.27-32,1983.」に記載されたものです。
実験は、矩形の地下空洞で発生する天盤崩落の様子を調べることを目的としています。いわゆる落盤ですね。実験結果を図-2に示します。空洞の両端部からクラックが伸びていき、これが繋がって天盤が崩落していく様子がわかります。図-3は、空気圧を増加させていった時のクラックの形状です。空気圧を増加させると、ポアソン比の効果でモデルの側方圧が増加します。側方圧が大きいと、クラックは空洞天盤に近い部分に入るようになってきます。
さて、この実験でのモデル内の応力状態を、有限要素法による2次元弾性解析を用いて調べてみます。底面摩擦試験と同様に、側面と底面の法線方向変位を拘束し物体力を加えます。このときのポアソン比を変化させて、モデルの側方圧を3通りに設定しています。
図-4が解析結果で、主応力の方向と大きさを十字形で表しています。青は圧縮応力を、赤は引張応力をそれぞれ表しています。いずれの解析結果でも、矩形空洞の隅角部には大きな偏差応力が生じています。ここで破壊が生じ二次クラックが発生したとすると、冒頭で述べた推論が正しければ、二次クラックは最大圧縮応力方向に沿う形で伸長するはずです。この伸長方向を図中に書き入れました。図-2のクラック形状に良く似ています。二次クラックの伸長経路は、側方圧の増加とともに空洞天盤に近づいてきます。これも、図-3と同じ傾向です。これらのことは、実規模の岩盤でも、二次クラックが最大圧縮応力方向に伸長するとする証左であると考えます。
このような二次クラックの伸長が、トンネル生じた場合はどうなるでしょうか。
図-5には、素掘りのトンネル周囲における応力分布の一例を示しました。極端な例として、初期応力状態が鉛直応力のみの場合を取り上げています。現実にも、斜面に近いトンネルや坑口近くなどでは生じ得る応力状態です。ここにトンネルを掘削した場合には、側壁部の応力集中により岩盤が破壊し、ここから開口を伴った二次クラックが、最大圧縮応力方向であるトンネル上方へと伸長していきます。二次クラックは開口しながら伸長するため、岩盤を分離して(割って)行きます。二次クラックの伸長方向には、拘束圧に相当する最小圧縮応力が0か引張応力であるため、伸長を抑制する効果が無く、二次クラックはどこまでも伸長できます。反対側の側壁から伸長してきた二次クラックと、トンネル上方でつながれば天端の崩落となり、地表面まで達すれば地表面も巻き込んだ陥没となります。このような応力状態でトンネルの安定を確保するためには、最初の破壊を食い止めるしかありません。側壁部をロックボルトなどで補強するとともに、分割施工や先受け工法などで掘削解法力を補強工で負担し、側壁部の応力集中を最小化することが考えられます。
このような二次クラックの成長に関しては、筆者が過去に行った数値解析(図-6)があります。鉛直方向応力のみが生じている岩盤への円孔の掘削を解いたもので、六角形に配置した要素の周りには全てジョイント要素が配置してあります。ジョイント要素は、面上の応力がせん断強度や引張強度を超えると、滑動したり開口したりします。この例では、側壁部で活動変形が発生し、この結果他の要素に引張りの変形が発生し、開口した面が連鎖してトンネル上方へ向かっていることがわかります。解析でも、初期クラックの破壊と、これに伴う二次クラックの伸長が表現されています。
側方圧が大きい場合には、図-7に示すように、最大圧縮応力方向が壁面に沿う形で分布します。トンネル側面などで初期クラックの破壊が生じ、ここから開口した二次クラックが発生した場合でも、拘束圧に相当する最小圧縮応力が高いためにクラックは伸長しにくいと考えられます。ただし、「二次クラックの長さは有効拘束圧に反比例する」ことから、トンネル周囲の間隙水圧が高い場合は別です。有効拘束圧は最小圧縮応力と間隙水圧の差ですから、このような場合は、吹付コンクリートやH鋼などで内圧を加えて最小圧縮応力を増加させるか、水を抜いて間隙水圧を下げる必要があります。二次クラックの伸長に備え、クラック先端部の引張の応力集中によっても破断しない鋼材を、二次クラックの伸長方向である最大圧縮応力方向に対し垂直に打設することも考えられます。まさに、トンネル工法で用いられているロックボルトがこれです。ただし、同図に書き入れたように、内圧を加えにくい下盤ではクラックの伸長が懸念され、盤膨れの原因となると考えられます。
次回は、スケールを大幅に拡大し、日本列島では有効拘束圧はどうなっているかを推測します。