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第20回 軸差応力下の岩石挙動(非排水)
今回は、非排水条件で得られた実験結果を表現することができる理論式を構築した上で、実験結果と理論式を比較検討します。キーポイントは、間隙水圧の変化です。
これまでに、体積ひずみの変化が次のように表すことができることを示しました。
排水条件では間隙水圧が一定に保たれましたが、非排水条件では間隙水圧が変化するため、体積ひずみの変化を記述するためには間隙水圧の変化を求めておく必要があります。まず、式(1)において、間隙水圧を初期間隙水圧とこれからの増分とに分けます。
ここに、νuは非排水条件で計測されるポアソン比です。
第13回で示したとおり、間隙水圧の増分と体積ひずみの増分には次のような関係がありました。
ここに、βは等方圧の増分に対する間隙水圧変化の割合を表す定数です。
式(2)と式(3)からは、間隙水圧の変化分が次のように表されます。
なお、第10回で示したように、実験では試料中央部の表面付近で二次クラックの発生が活発に生ずるために、計測される膨張ひずみが岩石試料の平均値を上回っていました。後に実験結果と理論式を比較するにあたっては、これを補正しておく必要があります。この補正係数をηとして、式(4)の体積の膨張を与える項に加えておきます。
上式は簡単に解くことができて、間隙水圧の変化分を軸ひずみの関数として求めることができます。
ここに、σef は初期有効拘束圧です。
式(5)中のKuやνuは実験で計測されますが、排水条件での計測値とは次のような関係にあります。まずKuですが、第13回で示したとおり、
の関係があります。ここに、Kd は排水条件で計測された体積弾性定数、αは間隙水圧だけを変化させた場合の体積弾性定数とKd の比です。
次に、
とし、式(9)をヤング率とポアソン比で表すと次式となります。
せん断弾性定数Gは、排水条件によらないことから、
であり、これと式(11)から
が得られます。このように、式(2)や式(5)に現れる定数は、排水条件と非排水条件で計測された値から求めることができることがわかります。
式(2)や式(6)に以下に示す式を加えて、軸差応力に対する軸ひずみ、体積ひずみ、間隙水圧の変化を求めることができます。
では、三軸圧縮試験結果と理論式が描く曲線とを比較してみましょう。理論式で用いた定数を、前回の乾燥条件と排水条件での比較で用いた値も含め、表-1にまとめて示します。Eからμまでは、乾燥条件と排水条件での比較で用いた値と大差ありません。ただし、岩種が違うと値が大きく異なり、これらの定数が岩種ごとの特性値であることを示しています。
これらの物性値を用いた理論式を実験結果と並べて図-1から図-1に示します。非排水条件での実験結果で見られた次のような点が良く表現されています。
(1) 間隙水圧が増加から減少に転じる。
(2) 初期有効拘束圧が異なっても、体積ひずみが同じ値に収束する。
(3) 軸差応力と軸ひずみの関係が、初期有効拘束圧の影響を受けにくい。
まずは、軸差応力に伴う間隙水圧の減少です。これは、式(5)によって表現されており、二次クラックの発生と開口の結果、間隙水が膨張し圧力が低下するために生じます。理論式は、実験結果をよく再現しています。二次クラックの発生と開口の大きさは有効拘束圧に反比例するため、体積ひずみの膨張や間隙水圧の減少は、初期有効拘束圧が小さいほど低い軸差応力から生じます。しかし、軸差応力が増加し、二次クラックの発生と開口が活発になるにつれ間隙水圧は減少し、有効拘束圧が大きくなるために、今度は二次クラックの発生と開口が抑制されます。この結果、体積ひずみや間隙水圧は初期有効拘束圧が異なっても同じ値に収束します。理論式は、実験で見られたこの傾向を明瞭に表現しています。この有効拘束圧の増加は、軸差応力と軸ひずみの関係にも影響を及ぼし、初期有効拘束圧に係わらず同様の形状となります。
このように、非排水条件でも理論式は実験結果を的確に再現していました。このことは、理論式を構築する上での次のような前提が妥当なものであることを示しています。
(1) 軸差応力の増加に伴い初期クラックの破壊が生じ、二次クラックが発生する。
(2) 二次クラックは最大圧縮応力方向(試料軸方向)に伸長する。
(3) 二次クラックの長さや開口に伴う膨張ひずみは、有効拘束圧に反比例する。
(4) 軸ひずみは、試料内部の実効応力に対し弾性的に生じている。
次回は、ちょっと視点を変えてクリープ破壊について考えてみます。クリープ破壊とは、応力を一定に保った状態でもひずみが進行し、巨視的な破壊を引き起こす現象です。トンネルや斜面の突然の崩壊や断層の発生などに関連して議論されています。これを、実効応力の概念を適用し説明します。