技術資料
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第18回 破壊密度関数
今回は、これまで何度も出てきた破壊密度関数について考えてみます。
復習になりますが、三軸圧縮試験では軸差応力と軸ひずみの関係が次のように表されると考えました。
式(1)は、軸ひずみが岩石内部の実効応力に比例して(弾性的に)生じているとの前提の下で得られています。すなわち、初期クラックの破壊により軸差応力に抵抗する断面積が減少し、岩石内部では計測している軸差応力以上の実効応力が生ずるために、軸差応力に比例した値以上の軸ひずみが発生する、と考えてきました。
式中の破壊密度関数Dは、ある実効応力で破壊する初期クラックの数の、破壊する可能性のある初期クラックの総数に対する割合です。実効応力は軸ひずみと比例関係にあることから、破壊密度関数は軸ひずみを使って書き表されます。
軸ひずみが0では初期クラックは破壊しないので、破壊密度関数は軸ひずみが0で0、軸ひずみが充分大きくなると全ての初期クラックが破壊するので0となる関数と考えられます。このような性質を持つ密度関数にWeibull関数があります。
ここに、mとλは定数です。これを使って実験から得られる破壊密度関数を近似してみたいと思います。
ある軸ひずみに至るまでに破壊した初期クラックの密度(破壊密度)は、破壊密度関数をその軸ひずみまで積分することで求まります。
式(2)で表される破壊密度関数を図-1に、式(3)で表される破壊密度を図-2に示します。ただし、mとλの両方を変化させるとわかりづらいのでmだけを変化させることとし、λは破壊密度関数のピークが同じ軸ひずみΔε1pで生ずるように定めました。
図中のグラフでは、Δε1pを0.5%としています。mを変化させると破壊密度関数のピークの大きさが変化し、mが関数の形状を決めていることがわかります。
では、式(1)が正しいとの前提で、実験結果から破壊密度関数に相当する関数を求めてみましょう。得られた関数が密度関数としての性質を満たしていれば、式(1)が妥当なものであることがわかります。
式(2)を変形すると、
であることから、実験結果を加工し次のようにして破壊密度を求めることができます(図-3)。
図-4~図-9に、実験結果より式(5)の操作によって求まった値に重ねて、この値を近似する、式(3)で表される破壊密度による曲線を描いてみました。式(3)のmとλは、試行錯誤によって定めました。図からは、実験データを加工して得られた関数が、Weibullの密度関数によって近似できることがわかります。このことは、得られた関数が密度関数としての性質を持つことを意味しています。
表-1に、実験結果を近似するときに用いたmとλの値をまとめて示します。Weibullの密度関数では、関数の形状をmが規定していることは先に述べました。表に示したmの値を見ると、各岩種では、実験条件にかかわらずmの値がほぼ等しくなっていることがわかります。このことは、得られた関数の形状が実験条件に左右されにくいものであり、岩石の種類に依存するものであることを示唆しています。
まとめると、
(1) 得られた関数は、密度関数としての性質を有している。
(2) 得られた関数の形状は、岩種によって左右され、実験条件の影響は受けにくい。
ことから、式(1)で表される軸差応力と軸ひずみの関係が妥当なものであることが裏付けられます。
次回からは、これまでの検討により得られた理論式を用いて、三軸圧縮試験のシミュレーションを試みます。