技術資料
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第17回 体積ひずみと有効拘束圧
前回は、軸差応力下でも軸ひずみは弾性的に挙動していると考え実効応力を定義し、これをもとに軸差応力と軸ひずみの関係を求めました。今回は、同様の前提の下で体積ひずみについて検討します。
第15回では、初期クラックの破壊と二次クラックの伸長に起因する体積ひずみとして、次式を示しました。
ここに、 は軸差応力、ρは単位体積あたりの破壊する可能性のある初期クラックの数、γは初期クラックの角度と長さからなる関数、Dはある軸差応力で破壊する初期クラックの割合を表す破壊密度関数です。
式(1)に対しても、実効応力を適用します。すなわち、二次クラックの伸長による体積ひずみは実効応力に対応して生じていると考えます。三軸圧縮試験では、
であることも考慮して、式(1)を実効応力で書き直します。
さらに、弾性変形成分Δεveを加えると次式となります。
軸ひずみは実効応力に対し弾性的に生じているとすれば、
より、
が得られます。ここで、
であり実験により求まる定数です。また、ポアソン比は岩石内部でも計測値でも同じと考えます。
さて、式(6)が正しいとすれば、二次クラックの伸長と開口による体積ひずみΔεvdは、実験結果を用い次のように求めることができます。
すなわち、軸ひずみと体積ひずみの関係を示したグラフで、初期接線からのずれとしてΔεvdを求めることができるはずです。
さらに、二次クラックの伸長と開口による体積ひずみΔεvdは、
であり、Δεvdは有効拘束圧に反比例することから、Δεvdに有効拘束圧を乗じた値を軸ひずみに対してプロットすれば、軸ひずみだけに依存する一本の曲線が得られるはずです。
来待砂岩の乾燥条件での実験結果を例に、これらの作業を行ってみましょう。
図-2は、実験で得られた軸差応力と体積ひずみの関係です。拘束圧が小さい範囲では体積の膨張が見られていますが、拘束圧が大きくなると体積が収縮しているように見えます。これは、軸差応力と軸ひずみの関係で見られた剛性の低下と同じく、岩石内部の実効応力が計測している軸差応力を上回っているために生じている、いわばみかけの収縮です。物理的に体積が収縮しているわけではなく、体積の膨張が生じていることは、次の作業でわかります。
軸ひずみに対して体積ひずみを描くと、全ての拘束圧で体積が膨張に向かっていることがわかります。軸ひずみが実効応力に対して弾性的に生じているとすれば、実効応力に対しては体積が膨張していくことになります。
次に、図-1に示したように、軸ひずみと体積ひずみの関係を示したグラフで、初期接線からのずれとして二次クラックの伸長と開口による体積ひずみΔεvdを求めてみます。得られた値を軸ひずみに対して描いたものが図-4です。さらに、この値を径方向のP波速度比に対して描いたものが図-5です。二次クラックの伸長と開口による体積ひずみとして抽出した値は、径方向のP波速度の減少と強い相関をもっており、実際に二次クラックの伸長と開口による体積ひずみであると考えられます。
最後に、二次クラックの伸長と開口による体積ひずみの値に拘束圧を乗じ、軸ひずみに対して描くと図-6が得られます。拘束圧の大きさに係わらずほぼ1本の曲線となります。
これまで示した実験結果の全てに対して、この操作を行ってみたものが図-7~図-15です。ただし、有効拘束圧が0である乾燥条件の実験結果は省きました。多少のばらつきはあるものの、いずれの条件においても概ね一本の曲線が得られます。このことは、
(1) 軸ひずみは実効応力に対して弾性的に生じている。
(2) 二次クラックは最大圧縮方向に伸長し、これによる体積ひずみは有効拘束圧に反比例する。
とした前提が正しいことの証左であると考えます。
次回は、軸差応力と軸ひずみの関係から破壊密度関数を求めてみます。