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第16回 実効応力と軸ひずみ
前回は、軸差応力の増加とともに発生する体積の膨張を、最大圧縮応力方向(軸方向)に伸長する二次クラックの発生に起因するものとして、体積ひずみの膨張分と軸差応力の関係式を求めました。今回は、軸差応力と軸ひずみの関係式を求めてみましょう。
図-1が典型的な軸差応力と軸ひずみの関係です。ある程度軸差応力が大きくなるとグラフは頭打ちとなり、剛性が低下していきます。この傾向は拘束圧を変えてもあまり変化しません。さらに変形が進むと、軸ひずみが増加しても軸差応力が増加しなくなり、その後軸差応力は減少します。
過去に示した実験結果を振り返ると、ここで疑問が生じます。なぜ、軸方向の剛性が下がるのかです。
軸方向の剛性が何らかの原因で下がるのであれば、軸方向のP波速度もこれに呼応して低下するはずです。実際は、軸方向のP波速度はむしろ上がっていきました(図-2)。さらに、AEの発生数と軸方向のP波速度の関係(図-3)からは、軸方向のP波速度の増加の大半はAEが発生し始める前に生じており、AEが活発に生じ始めてもP波速度はほとんど変化しないことがわかります。すなわち、軸方向で見られるP波速度の増加は岩石内の微小破壊とは関係なく、例えば軸方向の圧縮変形による空隙の閉鎖のような、静かな構造変化によるものと考えられます。
これらから得られる自然な結論は、「軸ひずみは弾性的に生じている」です。では、弾性的に変形しながら、軸方向の剛性が低下していくように見えるのはどうしてでしょうか。筆者は、計測している応力と岩石内部の応力が異なっているためであると考えます。すなわち、外部で計測している応力より内部の応力が大きくなっていくために、内部の応力に対して弾性的に生じている軸ひずみが、外部の応力に対しては、これをもとに算定される弾性的なひずみより大きなひずみとなっていると考えるものです。この内部の応力を、実効応力と呼ぶこととします。
図-4が実効応力の概念を表したもので、偏差的な荷重Psに抵抗する岩石試料のある断面を示しています。岩石試料では、円柱を斜めに切った断面のイメージです。
計測している軸差応力 は、次のように荷重を断面積で除して求められます。
一方、岩石の変形により生じている実効応力は、次のようになっていると考えます。
ここに、ξ は断面のうち初期に抵抗している面積の比率、ai は偏差的な荷重の増加によって滑動し抵抗を失った面積で、破壊した初期クラックの面積に相当します。すなわち、初期に荷重に抵抗していた断面積から、さらに破壊によって抵抗が失われた断面積を差し引き、残りの断面積で荷重を除したものが、岩石内部で生じている実効応力に等しいと考えるわけです。
これら二つの式からは、計測している応力と実効応力の関係が求まります。
破壊した初期クラックの面積の総和は、初期クラックの面積の平均と、現在の実効応力に達するまでに破壊した初期クラックの総数Nとの積で近似することします。
破壊した初期クラックの総数Nは、ある実効応力で破壊する初期クラックの数を表し、全体の総和を1とする破壊密度関数Dを用いて表します。これに断面内の初期クラックの密度ρaと、初期の断面積を乗ずると、ある実効応力で破壊する初期クラックの個数となります。ある実効応力に達するまでに破壊した初期クラックの総数は、密度関数をその実行応力まで積分した破壊密度を用いて求められます。
したがって、計測されている応力と実効応力との関係は、
となり、また であることから次式が得られます。
岩石の三軸圧縮試験では、
ですが、ここで先に述べた実験からの帰結である「軸ひずみは弾性的に生じている」を加えます。すなわち、軸ひずみは実効応力に対して弾性的に挙動し、実効応力は軸ひずみより計測することができると考えます。
ここに、E*は破壊していない部分のヤング率です。
この条件を加えると式(7)は、
となり、
であることから、最終的に軸差応力と軸ひずみの関係が次のように求まります。
いかがでしょうか。軸差応力と軸ひずみの関係が非常にシンプルな形で表されます。次回は、実効応力の概念を体積ひずみについても適用します。