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第14回 等方圧と間隙水圧に対する応答モデル
これまで、三軸圧縮試験により、等方圧や間隙水圧に対する岩石の挙動を調べるとともに、体積(等方)成分に関する構成方程式を示しました。今回は、この構成方程式の意味するところを、岩石の構造を単純化した数学モデルを使って考えてみたいと思います。
図-1が、筆者が考える岩石モデルです。内部に空洞を持つ円筒で、円筒部は岩石の構造骨格を、内部の空洞は岩石の空隙を代表させます。外面からは等方圧が作用し、内面からは間隙水圧が作用するとします。岩石の構造の特徴を最大限単純化しました。
このモデルには理論解があり、円筒に外圧Po 、内圧 Pi が加わっている場合は、円筒部の変形が次式で与えられます。ただし、平面ひずみ条件とします。
それでは、この岩石モデルを使って、等方圧や間隙水圧に対する応答を調べてみましょう。注目するのは、αとβの物理的な意味です。復習になりますが、αとβは次のように求められます。
K1(=Kd)は間隙水圧を一定に保ち(Δφ=0)、等方圧を増加させた場合に計測される体積弾性定数、K2は等方圧を一定に保ち(Δσm=0)、間隙水圧を増加させた場合に計測される体積弾性定数です。β は、非排水条件で等方圧を増加させた場合の、等方圧に対する間隙水圧の増加割合です。
まずは、αをこの岩石モデルで求めてみます。
このモデルに外圧(等方圧)を加えた際に、これに対する外面の変形uisは、Po=σmとして次式で求められます。
また、内圧(間隙水圧)に対する外壁の変形uppは、Pi=φとして次式となります。
いま、加えた等方圧と間隙水圧が同じ大きさの場合(σm =φ)を考えると、それぞれの変形の比が次のように求まります。
ここで、n=a2/b2は空隙率です。
この比は、みかけの体積弾性定数の比に他ならず、その絶対値がαです。
実験で用いた岩石ではn=0.2ほどです。岩石の構造骨格のポアソン比は、実験では計測できません。計測できるのは、空隙も含めた岩石全体でのみかけのポアソン比です。ただし、ν=0.3と仮定することは無理がないでしょうから、これらよりαを求めると2.1となります。これは、第13回で示した実験で得られた値と少し大きめですが近いものです。
式(6)からわかるように、同じ大きさの等方圧と間隙水圧を岩石に加えても、等方圧が加わる表面積よりも間隙水圧の加わる表面積が小さく、この分間隙水圧による変形が小さくなります。このため、間隙水圧に対しては見かけの体積弾性定数が大きくなり、αが1以上となるわけです。岩石モデルからは、αは空隙率に依存する物性値と解釈できます。空隙率が小さいほどαは大きくなります。
次に、非排水条件で等方圧を加えた際の間隙水圧の増加割合を表すβについて、岩石モデルを使って物理的な意味を考えてみます。最初に、岩石モデルの内空である円柱部に水が詰まったモデルを考えるために、円柱の外側から間隙水圧が加わった際の変形を求めておきます。
これは、式(1)でa=0とすればよく、
として求まります。この円柱は水でできているため、水の体積弾性定数をKwとすれば、
であり、また水では であることを考慮のうえ、改めてPo=φで外径をaとすれば、
となります。
内部に水の詰まった岩石モデルでは、r=aでの変形が、外側の円筒部と内側の円柱部(水)で同じでなければなりません。また、円筒部には内圧として間隙水圧が加わっています。このときの円筒内面の変形は次のようになります。
これが水の変形と等しいことから、
であり、式の変形を進めると、
となり、最終的にβ に相当する値が求まります。
ただし、岩石の構造骨格のヤング率Eは実験では計測することができません。そこで、排水条件で計測される体積弾性定数 Kd を用いてこれを表してみます。排水条件での外面の変形は式(4)で表されます。少し変形して、
体積ひずみを求めると、
であり、排水条件での体積弾性定数は次のように求められます。
上式と式(16)からは、最終的に次の関係が得られます。
実験に用いた岩石ではKd が4GPaほどであり、Kwは2GPaほどです。これに ν=0.3、n=0.2を仮定し、これらより β を求めると0.83となります。これもまた、実験で得られた値と近いものです。このように、β は水と岩石の体積弾性定数の比と空隙率に依存すると考えられます。岩石の体積弾性定数が大きいほど β は小さな値となります。
最後に、ここで用いた岩石モデルで次の関係があるかを確かめてみます。
まず、非排水条件で岩石モデル外面の変形を求めてみます。式(1)からは、
となりますが、
であることを考慮すれば次式が得られます。
一方、排水条件におけるモデル外面の変形は次のようになります。
これら二つの変形の比は、加えた等方圧が同じであることから、非排水条件と排水条件で計測された体積弾性定数の比そのものです。
少しややこしいですが、上式を変形し式(7)を考慮すると、最終的に式(27)の関係が得られます。
このことは、ここで用いた岩石モデルが、実際の岩石の等方圧や間隙水圧に対する応答をよく表現できていることを示しています。
これまでの検討から、岩石に等方圧や間隙水圧が加わった場合の岩石の応答がわかりました。次回からは、いよいよ三軸圧縮試験結果を表現できる構成方程式を組み立ててみます。