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第11回 クラック伸長と有効拘束圧
これまで見てきました水で飽和させた岩石試料を用いた実験では、乾燥試料を用いた実験と同様に、偏差応力の増加に伴って微小破壊が発生し、同時に体積ひずみの膨張が生ずることがわかりました。また、これに伴って排水条件の実験では水の吸い込みが、日排水条件の実験では間隙水圧の現象が観測されました。これらのことは、微小破壊によって開口を伴った空隙が発生することを意味しています。乾燥試料を用いた実験結果と飽和試料を用いたものとの違いは、体積ひずみの膨張や水の吸込み、間隙水圧の減少が拘束圧に依存するのではなく、拘束圧と間隙水圧の差である有効拘束圧に依存することでした。
このような現象がなぜ生ずるかを、今回は理論的に検討してみたいと思います。
第6回では、乾燥状態にある岩石に偏差応力を加えると、初期クラック端での引張応力の集中により、この部分で引張破壊が発生し、開口を伴った二次クラックが発生すると考えました。この時と同じモデルを用いて、飽和している岩石についても二次クラックの挙動を検討します。
まず、第6回の復習になりますが、軸差応力により初期クラックが変形し、先端部の引張破壊によって両端から二次クラックが発生して、これが直線的に伸びて行った場合を想定します。これを図-1の(a)のようにモデル化します。この二次クラックが初期クラックに比べ充分長くなると、初期クラック面は剛体的に滑動するようになります。したがって、二次クラックの挙動を考える上では、初期クラック面の存在を無視して、初期クラックと二次クラックからなる系を、二次クラックだけの直線状のクラックとして近似的に取り扱うことができます(図-1(b))。このとき、滑動していなければ初期クラック面に生ずべきせん断応力τは、二次クラックの中央部に集中荷重Pとして作用すると考えれることができます。この集中荷重Pは、二次クラックを開口させるとともに、軸差応力の増加に比例して大きくなることから、二次クラックが伸びていく原動力となります。一方、二次クラック面には圧縮応力σnが作用し、これは二次クラック面を閉じさせようとします。飽和試料では、二次クラック内面にはその角度にかかわらず間隙水圧φが作用し、これは二次クラックを開口させる方向の力として働きます。
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整理すると、二次クラックの成長に関与する力は、圧縮応力σnと間隙水圧φ、集中荷重Pの二次クラック面の法線方向成分Pnです。このうち、Pnとσnは次式のようになります。
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ここに、2aは初期クラックの長さ、θ、δはそれぞれ初期クラック、二次クラックの最大圧縮応力方向に対する角度です。
引張り変形をしながら伸長する二次クラックは鋭い形状をしていると推測でき、先端における引張破壊に対する抵抗は、ここに生じている引張応力集中に比べ充分小さいと考えることができます。すなわち、Pnとφによって二次クラック先端に生ずる引張応力集中の大きさが、σnによって二次クラック先端に生ずる圧縮応力集中の大きさを上回っている間は、二次クラックは伸び続けます。第6回を思い出していただくと、クラック先端近傍の応力状態が、クラック先端を原点とする極座標系(r, ζ )を用い、式(3)で近似できることを示しました。r が0に近づくほど大きな応力が発生していることがわかります。式中のKは、クラックの長さとクラックに作用する力からなる関数で、応力拡大係数と呼ばれます。
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破壊力学によれば、各々の応力拡大係数は次式で与えられます。
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ここに、2cは二次クラックの長さです。この三つの力により生ずる二次クラック先端の応力の和が0となり、応力集中が解消されるまで二次クラックは伸長します。したがって、二次クラックの長さは次のようにして求めることができます。
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式(1)と式(2)を考慮し整理すると、二次クラックの長さとして次式が得られます。
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式(11)をもとに、二次クラックの最大長を与える伸長角度δと(σ1–σ2)/(σ2–φ)の関係を示すと図-2のようになります。同図では、θ=15゚~75゚の角度を持つ初期クラックについて、二次クラックの長さが最大となる伸長角度δを、(σ1–σ2)/ (σ2–φ)との関係で示しました。軸差応力(σ1–σ2)が有効拘束圧(σ2–φ)に比べ大きい範囲であれば、最大圧縮応力方向に伸長する二次クラック(δ=0)が最大長を与えると近似できることがわかります。
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このとき、二次クラックの相対長は次式で与えられます。
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すなわち、開口した二次クラックが最大圧縮応力方向に伸長すると近似すれば、二次クラックの長さは軸差応力に比例し、有効拘束圧に反比例することになります。
このことは、飽和試料を用いた実験結果と整合的です。実験では、軸差応力の増加とともに微少破壊が発生し、これに呼応して体積ひずみが収縮から膨張に転じました。この軸差応力の増加と体積ひずみの関係は、有効拘束圧が等しければ同様の傾向を示しました。非排水条件では、体積ひずみが膨張に転ずると間隙水圧が減少し、軸差応力の増加に対する間隙水圧の変化は、初期有効拘束圧が等しければ同様の傾向となりました。これらのことは、微少破壊によって発生した二次クラックは最大圧縮応力方向に伸長し、その長さは軸差応力に比例し有効拘束圧に反比例する、と考えることで合理的に説明できます。
本シリーズでは、クラック発生や伸長のメカニズムとこれに及ぼす有効拘束圧の影響を明らかにした上で、最終的には三軸圧縮試験のシミュレーションが可能となる構成方程式を示したいと考えています。ただし、このためには、等方応力に対するひずみや間隙水圧の応答を知っておくことがどうしても必要になります。次回以降は、これをテーマとして進めます。