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第9回 間隙水圧の減少
今回は、水で飽和した岩石試料に軸差応力を加える際に、岩石からの水の出入りを禁止した非排水条件での実験結果を見て行きましょう。
排水条件での実験では、軸差応力が大きくなると間隙水が排水から吸い込みに転ずるようになり、この傾向は拘束圧と間隙水圧の差が小さいほど顕著でした。この拘束圧と間隙水圧の差を有効拘束圧と呼ぶこととすれば、有効拘束圧が小さいほど、軸差応力の増加に伴う空隙の発生が活発に生ずると考えられました。では、このときに岩石からの水の出入りを禁止したら、いったいどうなるのでしょうか。
では、実験結果を見ていきましょう。なお、排水条件の実験では軸差応力を加える際に拘束圧と間隙水圧は一定に保っていましたが、非排水条件の実験では間隙水圧はコントロールできません。このため、実験中に間隙水圧が変化する可能性があることから、実験開始時の間隙水圧および拘束圧と間隙水圧の差を、それぞれ初期間隙水圧、初期有効拘束圧と呼ぶこととします。
まず、軸差応力に対する軸ひずみの変化を図-1に示します。軸差応力が大きくなると軸差応力の増分に対する軸ひずみの増分が大きくなる傾向は、乾燥条件や排水条件の場合と同じです。ただし、これらの関係に及ぼす初期有効拘束圧の影響は明瞭ではありません。
図-2に示した軸差応力と体積ひずみの関係では、排水条件の場合と同様に体積ひずみが収縮から膨張に転じ、初期有効拘束圧が小さいと膨張に転ずる軸差応力が低いことや、初期有効拘束圧が同じであれば軸差応力に対する体積ひずみの挙動が似かよったものとなっていることがわかります。ただし、排水条件のものと比べると初期有効拘束圧の影響が不明瞭なことや、軸差応力が大きくなると体積ひずみの大きさが初期有効拘束圧の大きさにかかわらず類似したものとなる傾向がわかります。
このときの間隙水圧の変化を図-3に示します。軸差応力が増加すると、間隙水圧は増加から減少に転じる様子がわかります。これは再三述べてきたように、軸差応力の増加に伴う新たな空隙の発生によるものです。空隙が開口しても岩石試料からの水の出入りが禁止されているため、間隙水が膨張し新しい空隙を埋めます。このときの膨張変形により間隙水圧は減少します。
図-4には、軸差応力と有効拘束圧の変化を示しました。初期有効拘束圧が同じであれば、軸差応力に対する有効拘束圧の変化が同様なものとなることが、極めて明瞭に表れています。また、初期有効拘束圧が小さいほど間隙水圧の増加から減少への転換が早く始まることもわかります。このことは、初期有効拘束圧が同じであれば、軸差応力による開口した空隙の発生の仕方は同じであることと、初期有効拘束圧が小さいほど、低い軸差応力から空隙が発生することを示しています。これらのことは、乾燥条件や排水条件での実験からの帰結と一致しています。
興味深いのは、図-4に示した有効拘束圧の変化です。軸差応力が増加すると、最初は圧縮力により体積が減少するために間隙水圧が増加し、有効拘束圧が減少していきます。そうすると微少破壊が活発に発生し、開口した空隙が発生するために間隙水圧が急激に減少し、有効拘束圧は増加します。軸差応力の増加によって有効拘束圧が小さくなろうとしても、まるでフィードバックがかかったように有効拘束圧の減少が妨げられ、間隙水圧は拘束圧を超えることがありません。
また、有効拘束圧が小さくなると空隙の発生により有効拘束圧が大きくなり、有効拘束圧が大きくなると空隙の発生が抑えられ有効拘束圧の増加が緩やかとなります。この結果、軸差応力が大きくなると、初期有効拘束圧の大きさにかかわらず有効拘束圧は似かよった大きさとなります。言い換えれば、開口した空隙の発生量が似かよった大きさとなります。これが、軸差応力に対する体積ひずみの変化において、初期有効拘束圧の影響が不明瞭となっていたことや、軸差応力が大きくなると体積ひずみの大きさが初期有効拘束圧の大きさにかかわらず類似したものとなった原因です。
次回は、もう少し詳しく非排水条件での岩石の挙動を見ていきます。