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第7回 有効拘束圧が鍵

担当:里 優
2017.07

地下の岩盤は、地下水(間隙水)で飽和していると考えられ、地下の岩盤の変形挙動に間隙水の存在は深く関与しています。いや、間隙水こそが岩盤の破壊現象を支配している、といって過言ではありません。トンネルの掘削、斜面の崩壊、断層の破壊などを議論する際には、間隙水の影響を無視することはできません。

今回からは、水で空隙を飽和させた岩石を用いた実験結果をご紹介します。小さい岩石を用いての実験ですが、地下の岩盤の変形挙動に及ぼす間隙水の影響の大きさを知るには十分です。

最初に、実験供試体の作成方法を説明します。

岩石試料には、ひずみゲージや圧電素子などを貼付した後、この部分をシリコンゴムで予め保護しておきます。岩石を飽和させるためには、水を張ったデシケータに岩石試料を入れて、真空脱気しながら水の浸透を待ちます。一定時間ごとに重量を計り、重量変化がほとんど無くなった時点で飽和したとみなし、実験に供します。

実験は、排水条件と非排水条件で行いました。間隙水圧を制御するための実験装置を、図-1に示します。実験の手順は、まず乾燥試料を使った実験と同様に、同じ大きさの拘束圧と軸応力を加え初期等方状態を作ります。このとき、岩石試料上端の管路はタンクに接続し、排水が自由に行われ、水圧が0に保たれるようにします。続いて、管路を増圧器に接続し、増圧器により間隙水圧を所定の大きさまで加えます。このとき、試料下端に設置した圧力センサで水圧を計測し、岩石試料全体が一様な間隙水圧となったことを確認します。

この後、軸応力を加えて軸差応力を発生させていくのですが、このとき試料上端部の管路を増圧器に接続したままとし、間隙水圧を一定に保った状態とするものを排水条件と呼びます。また、試料上端部の管路をバルブにより閉じてしまい、岩石からの水の出入りを許さないような状態とするものを非排水条件と呼びます。

図-1 飽和した岩石を用いた実験
図-1 飽和した岩石を用いた実験

今回は、排水条件での実験結果を見て行きましょう。実験では、拘束圧と間隙水圧の大きさを何通りか変化させています。なお、以降のグラフ中の凡例は、順に「岩石名」「拘束圧(MPa)」「間隙水圧(MPa)」「D(乾燥条件)、R(排水条件)、U(非排水条件)」を表しています。

図-2には、軸差応力と軸ひずみの関係を示しました。乾燥条件の場合と同様に、ある程度軸差応力が大きくなると、軸差応力の増分に対する軸ひずみの増加割合が大きくなり、その後軸差応力が増加しなくなり最大値となります。この最大値は、拘束圧と間隙水圧の差が大きくなると大きくなる傾向が見て取れますが、あまり明瞭ではありません。

一方、図-3に示した軸差応力と体積ひずみの関係では、乾燥条件の場合と同様に体積ひずみが収縮から膨張に転じますが、特徴的な傾向が見て取れます。すなわち、拘束圧と間隙水圧の差が同じ場合には似たような挙動を示すことと、拘束圧と間隙水圧の差が小さいほど低い軸差応力から体積の膨張が始まることです。例えば、三城目安山岩での実験結果では、拘束圧が30MPaで間隙水圧が25MPaの場合と、拘束圧が10MPaで間隙水圧が5MPaの場合の挙動はほとんど同じです。また、これらに比べ、拘束圧が30MPaで間隙水圧が20MPaの場合や、拘束圧が15MPaで間隙水圧が5MPaの場合では、体積が膨張に転ずる軸差応力は大きくなっています。

これらのことは、体積を膨張させる原因である、開口したクラックの発生や伸長が、拘束圧だけではなく間隙水圧の影響を受けており、影響の度合いは拘束圧と間隙水圧の差に依存することを示唆しています。クラックの外側から加わる圧力と内側の間隙水圧の差がクラックの伸長を左右することは、直感的にも理解できます。この岩石の挙動に大きな影響を及ぼす拘束圧と間隙水圧の差を、以後「有効拘束圧」と呼ぶこととします。

次回は、他の計測結果も含め、水で飽和した岩石内部で生じている現象をもう少し詳しく推測してみたいと思います。

図-2 排水条件での軸差応力と軸ひずみの関係
図-2 排水条件での軸差応力と軸ひずみの関係
図-3 排水条件での軸差応力と体積ひずみの関係
図-3 排水条件での軸差応力と体積ひずみの関係
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