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第3回 膨張する岩石

担当:里 優
2017.03

今回のテーマは、圧縮応力下に置かれた岩石が膨張するという不思議な現象です。この原因を、乾燥した岩石試料を用いた実験(乾燥条件)の結果を見ながら考えて行きましょう。

まずは、2種類の岩石で計測された、軸差応力に対するひずみの変化を示します。なお、以降の実験結果のグラフでは、初期等方状態での値を0とし、軸差応力を増加させていったときの変化分を示すこととします。また、以降のグラフ中の凡例は、順に「岩石名」「拘束圧(MPa)」「間隙水圧(MPa)」「D(乾燥条件)、R(排水条件)、U(非排水条件)」を表しています。実験では、初期等方状態での拘束圧を何通りか設定しています。排水条件や非排水条件については、回を改めて説明します。

図-1に示すように、軸差応力を増加させると軸ひずみも増加していきますが、ある程度軸差応力が大きくなると、軸差応力に対する軸ひずみの増加割合が大きくなり、グラフは頭打ちとなります。さらに変形が進むと軸差応力が増加しなくなり、その後減少し始めます。この軸差応力の最大値は、拘束圧が高くなると大きくなります。実験はこの前後で終了させています。これは、これ以上岩石試料を変形させると破断したり、試料を貫通するせん断面が形成される恐れがあり、ひずみゲージの損傷などにより実験の精密性が脅かされる可能性があるためです。また、そもそも破断したりせん断面が発生するような状態は、実験している岩石の巨視的な構造が変化しており、実験条件が変わってしまっています。本シリーズでは、岩石試料の巨視的な連続性が保たれる範囲での岩石の挙動を調べることにしています。

さらに変形させると岩石試料はどうなるかについては、「星野一男他:本邦産岩石の深部物性データ集(2001)、地質調査総合センター速報No.23、産業技術総合研究所地質調査総合センター」の表紙に貴重な写真があります(図-3)。福島県の常磐炭田で採取された流紋岩の三軸圧縮試験結果で、右から左へいくにつれ拘束圧が高く設定されています(0.1MPa、50MPa、100MPa、150MPa)。岩石を大きく変形させると、拘束圧が低いうちは縦の割れ目や斜めの割れ目が入って破断します。拘束圧が高くなっていくと密着したせん断面が形成されるようになり、さらに拘束圧を上げると硬い岩石が樽状に変形するようになります。このような大きな変形領域での岩石の挙動は、プレートの運動や断層の形成過程に関する研究で取り上げられます。

このような視点で見ると、図-1のグラフでは軸ひずみが1%程度であり、変形があまりに小さいように感じます.。確かに100mmの高さの岩石試料では、その変形量は1mm程度ですが、仮に1kmの長さの岩盤を考えると10mになり、1%の変形は決して小さいものではないことがわかります。実際、次のグラフで分かるように、岩石中ではダイナミックな変化が起きています。

図-2は、軸差応力に対する体積ひずみの関係です。こちらは軸ひずみと異なり、大きな変化を見せています。第1に、軸差応力(圧縮応力)を加えていくと、最初は体積が減少しますが途中から膨張に転じ、岩石中に何かカタストロフィックな変化が生じていることがうかがえます。第2に、拘束圧の影響が大きく、拘束圧が大きくなると膨張が発生しにくくなります。図-2に示した来待砂岩の結果では、体積が非弾性的に収縮しているように見えるものがありますが、この原因はずっと後の回で説明します。

このような圧縮応力の増加のもとでの体積の増加こそ、岩石内部の局所引張応力の発生とこれによる微少な割れの発生を示唆しています。なぜならば、岩石を構成する鉱物粒子が膨張するとは考えられず、体積の膨張は新たな空隙の発生によるものと考えられるからです。このような現象がなぜ生じるのか、これが岩盤の破壊や断層の形成、地震の発生機構などとどのような関係があるのかが、本シリーズの主題です。次回は、他のセンサでの計測結果をもとに、岩石内部で発生している現象をより詳しく見て行きたいと思います。

図-1 軸差応力と軸ひずみの関係(上:来待砂岩、下:三城目安山岩)
図-1 軸差応力と軸ひずみの関係
図-2 軸差応力と体積ひずみの関係(上:来待砂岩、下:三城目安山岩)
図-2 軸差応力と体積ひずみの関係
図-3 三軸圧縮試験による流紋岩の変形
(右から拘束圧0.1MPa、50MPa、100MPa、150MPa)
図-3 三軸圧縮試験による流紋岩の変形 1)
(右から拘束圧0.1MPa、50MPa、100MPa、150MPa)

参考資料
1)星野一男他:本邦産岩石の深部物性データ集(2001)、地質調査総合センター速報No.23、産業技術総合研究所地質調査総合センター

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