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第10回 地震と地下水位の変化
液状化が発生しなくても、地震動やこの原因となった地殻変動により、震源から離れた場所でも地下水位(水圧)の変化は発生します。このような現象は、地震の直前予測にも関連すると考えられており、産業技術総合研究所を中心に研究が進められています。
下図は、産業技術総合研究所が東海・近畿・四国に展開している観測井で、東日本大震災の際に観測された地下水位や水圧の変化です。震源から1,000kmほど離れているにもかかわらず、多くの井戸で地下水位や水圧の変化が見られます。
また下図は、地下水位や水圧の変化が観測された井戸における、これらの時間変化を示しています。地震発生直後から地下水位は変動し、地下水圧の観測点では水圧の振動が見られているものもあります。
この地下水変化の原因は、地震を発生させた断層の変形が、広い領域で地層を変形させ、この変形が間隙水圧を変化させたと考えられています。この、地震を発生させた断層の変形がもとで発生する地層の変形に関しては、岡田の式を用いて推定する方法があります。
岡田の式とは、地中のある面で変位の食い違いが発生した場合の弾性理論解です。断層の変形としては、走行方向のくい違い、傾斜方向のくい違い、開口変形が取り扱われており、断層付近の典型的な変形は下図のようになります。走行方向のくい違い変形では、4象限型の変形モードとなることがわかります。
岡田モデルと本シリーズで何回か紹介した干渉SAR解析については、次のような繋がりがあります。1992年6月に米国カリフォルニア州で発生したランダース地震(M7.3)では、人工衛星ERS-1に搭載された合成開口レーダーを用いた干渉SAR解析により、地殻変動が捉えられました。この結果は、科学雑誌Natureの表紙を飾るとともに、岡田モデルから計算される理論的な干渉画像と比較することにより、地震断層の滑り量分布の推定などが行われました。両者は大変よく似ています。
岡田モデルの理論式は、防災科学技術研究所のWebサイトで公開されています。そこで、理論式より断層変位に伴うひずみ分布を求めてみました。
結果を可視化するために、地層科学研究所の3D-Flowを使いました。まず、断層を含む100km四方で深さ10kmの領域を設定し、有限要素分割を行いました。領域の中心に長さ20km、深さ10kmの鉛直な矩形断層を仮定し、これが水平に単位の食い違い(滑り)変形した際の、各節点位置における体積ひずみを、岡田モデルより求めました。結果を図に示します。暖色は膨張の、寒色は収縮の体積ひずみを表します。
第7回で説明したように、岡田モデルにより地中のひずみが求まれば、Biotの間隙弾性論では間隙水圧変化が推定できます。最も単純には
ですが、断層の変位やこれに伴う地層の変形が地下水流れに比べて充分速いことから、地下水の出入りは無視することができ、
上式により地下水圧変化が求められます。結果を下図に示します。
産業技術総合研究所でも、国土地理院による暫定の断層モデル(国土地理院,2011)を用いて、岡田モデルで日本列島付近の体積ひずみ変化を計算しています。結果を下図に示します。結果を見ると、先に示した全ての観測井は膨張の領域にあり、全てで水位の低下がみられることになります。現実には、先に示したとおり観測井で水位変動はまちまちであり、実際の現象はより複雑なようです。
参考文献
1)Okada(1992) : Internal deformation due To shear and tensile faults in a half-space, Bull. Seism. Soc. AM., 82, 1018-1040.
※資料等最終参照日:2021年12月