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第4回 衛星SARによるモニタリング
地球観測衛星として長い歴史をもつのが光学衛星で、冷戦時代の1959年、アメリカで世界初の偵察衛星「コロナ」が打ち上げられて以来、多くの衛星が打ち上げられ実績を上げています。しかし、太陽光が当たらない地球の夜側や、雲で覆われた地表面は観測できないという弱点がありました。
この光学衛星の弱点を補えるのが、SAR衛星です。”SAR”とは、”Synthetic Aperture Radar”の略語で、日本語では「合成開口レーダー」と呼ばれます。SAR衛星は可視光の代わりに、電波の一種であるマイクロ波を使って地表面を観測します。マイクロ波は可視光より波長が長く、雲を透過するため、雲の下にある地表面も観測することができます。
このSAR衛星を使って、地表面の変形を調べる方法が干渉SAR解析です。国土地理院のWebページにこの方法が詳しく述べられていますので、是非ご覧ください。簡単に言うと、衛星が同じ軌道を2回とおり、それぞれで地表から反射する電波の位相を計測すると、地表面が例えば隆起している場合には、衛星との距離が変化し位相差が発生します。この位相差で発生する「干渉縞」から地表面の変形量を求めます。
干渉SAR解析の例については次回でご紹介することとし、この「干渉縞」に関しては、筆者の印象に強く残っている事柄があることから、ここで少し横道にそれますが述べたいと思います。
一つは、光弾性試験です。筆者が岩石力学を学び始めたころ、研究室に下図のような試験装置がありました。二組の偏光版の間に設置した載荷装置で、ガラス(か樹脂だったと思います)に力を加え、光源と反対側の偏光版から見ると、きれいな干渉縞ができていました。これがガラスの応力分布を表していると聞いて、驚いたことを記憶しています。
その原理は、光の振動方向によって屈折率(光の速度)が変わる複屈折という性質のために、この性質を持つ材料を通過した光自身に位相差が発生し、偏光版を通してみると干渉縞が見えるというものです。この複屈折の大きさが、材料のひずみ(応力)状態によって変化するため、材料内の応力状態がわかります。
偏光板をうまく組み合わせると、最大せん断応力の大きさに比例した位相差を干渉縞として見ることができます。下図に、実験結果と有限要素法による解析結果を示します。絵柄がよく一致することがわかります。有限要素法が無かった時代でも、このようにして応力状態を求めていたのですね。
もう一つは、光の性質に関する驚愕の実験です。光が波としての性質を持っていることは何となく理解ができます。例えば、下図(上)のように光源から発した光を二つのスリットを通すと、スクリーンには縞模様が現れます。これは干渉縞と呼ばれ、二つのスリットを通った波で場所により位相差が発生し、同位相の場所では光が強められ、逆位相の場所では打ち消しあうために縞模様となります。水面の2箇所をたたいて発生した波をイメージすると理解できます。
一方、光は粒子としての性質を持っています。光子と呼ばれるこの粒子をスクリーンに向けて発射すると(前図下)、スクリーンに点が現れます。この発射源とスクリーンの間に二つにスリットを設けて光子を発射し続けると、点が現れる場所と現れない場所が生じ、干渉縞を形成します。
このような現象が生ずるためには、光子が同時に二つのスリットを通り、自分自身と干渉したと考えざるを得ません。量子力学で学んだことですが、直感では理解不能です。 ちょっと寄り道しましたが、次回から列島観測に戻ります。
※資料等最終参照日:2021年6月