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第3回 GNSSで見る熊本地震
今回は、国土地理院が提供する電子基準点のデータから、2016年4月16日に発生した熊本地震時の地盤の変形を調べてみたいと思います。熊本地震では、同日1時25分に西原村と益城町で震度7が観測されています。
下図に示すように、本地震の震央付近にはこれを囲むように6箇所の電子基準点があります。このうち、「熊本」と「長陽」観測点のデータを見てみます。データは、2016年一年分です。それぞれのデータには数10cmの変位が記録されており、地震によって大きな地盤変形が発生したことがわかります。あるいは、この変形が地震を発生させたとも考えられます。
6箇所で観測された地震に伴う変位のうち、水平面内の成分を取り出し、ベクトル表示したものが下図です。「熊本」と「長陽」に大きな変形が生じており、その方向が逆でベクトルが向かい合った形となっています。これは、「熊本」と「長陽」との距離が縮まったと見ることもできますが、断層滑り変形のように変位のすれ違いが発生したと見ることができます。どちらが正しいかは、次回以降に紹介する衛星SARによる観測で明らかとなります。
ここで得られた6個の変位ベクトルから、6角形の内部のひずみを推定することができます。有限要素法を学んだ方であれば思いつくはずです。すなわち、6角形を3角形に分割して節点の変形から要素内のひずみを求める方法です。
ひずみの定義は、uをx方向の変位、vをy方向の変位として次のようになります。
3角形要素では、内部のひずみが一定と考えて勾配マトリクス(通称Bマト)を使って変位からひずみを求めます。
具体的にマトリクスの成分を示すと次のとおりです
求められた各要素のひずみより、各要素の形状変化の度合いを表す最大せん断ひずみ、
を求めてみた結果を下図に示します。6角形の領域の中央付近でせん断変形が大きくなっており、この部分ですれ違い変形が生じている可能性が示唆されています。
電子基準点のデータをこのように加工することで、地盤の変形の特徴を調べることができます。次回からは、衛星SARを活用したモニタリングを見ていきます。