技術資料
Feel&Think
第2回 GNSSによるモニタリング
国土地理院では、GNSS(Global Navigation Satellite System / 全球測位衛星システム)を利用して、電子基準点と呼ばれる計測点の座標を求め、これを公開しています。
このデータからは日本列島の変形が手に取るようにわかります。特に、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の発生後に計測された変形には、目を見張るものがあります(国土地理院ウェブサイト)。
この地震の本震前後では、牡鹿半島周辺において水平方向で5mを超える変位が観測されています(下図左)。地震後も水平方向の変形はさらに続き、本震後から9年経過した2020年までに、最大約1mの変形が継続しています(下図右)。
興味を引くのは関東地域の変形で、東京湾の周りを回りこむように変形の方向が変化しています。このような場所ではせん断変形が大きくなり、大きさによっては岩盤の破壊や断層の発生・変形が懸念されます。今後もモニタリングを続ける必要を強く感じます。
上下方向では、東北地方の太平洋沿岸で地震後に大きな沈降が観測されており、牡鹿半島周辺では1mを超える値となっています(下図左)。本震後は隆起に転じており、本震後9年後の現在までに牡鹿半島周辺で約40cmの隆起となっています。
ここで気になるのは、変形モードの変化です。本震時には水平変位が太平洋側に向かい、上下方向は沈降でした。これに引き続く変位では、水平変位は太平洋側に向かっていますが、上下方向は隆起となっています。本震時の変位は、日本列島を乗せた北米プレートが太平洋プレート上を滑り、太平洋方向へ変位したため、岩盤が引き伸ばされて沈下変形が発生したと解釈されています。この変形が継続しているのであれば、上下方向の変形は沈下が継続すると考えられますが、実際は逆です。ひとつの解釈としては、伸び変形によって低下した間隙水圧が、回復しようと吸水しているとするものですがどうでしょう。
筆者が勤務する地層科学研究所・大和事務所の近くには、町田に電子基準点が設置されています。ここ3年間の値を見てみましょう。
得られた変位を見ると、ノイズが多く含まれています。原因は、電波が通過してくる電離層の状態などがあるそうです。そこで、カルマンフィルタを用い、ノイズを低減させて見ます。カルマンフィルタでは、次のような状態空間モデルを前提とします。
観測方程式
「観測値」 = 「状態」 + ノイズ
状態方程式
「状態」 = 「前回の状態」 + ノイズ
この場合の「状態」は「変形している状態」あるいは「真の地盤変位」であり、「観測値」には「解析により求められた変位量」が対応します。カルマンフィルタによる「状態」の推定方法は、前シリーズをご覧ください。
観測方程式のノイズの分散を10cm、状態方程式のノイズの分散を0.1cmとしてフィルタを適用してみた結果を次図に示します。
このように、カルマンフィルタでノイズを低減することで変位の傾向が明瞭となり、mm単位で地盤の変位を調べることができます。町田観測点では、南北方向に年間1.5cm程度の変位が継続していることがわかります。上下方向の変位もmm単位で調べることができ、GNSSにより得られた変位は地盤沈下の計測にも使えそうです。