技術資料
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第7回 トンネル掘削と逆解析
今回は、カルマンフィルタを用いた逆解析をトンネルの変形問題に適用してみます。
トンネル掘削に伴う変形をもとに、周辺地盤の剛性を推定することが逆解析の目的ですが、これが実は難題です。トンネルを1m掘り進んだ際の変形をもとに地盤剛性が求まったとしても、これまで掘削してきた地盤の剛性が誤っていることとなり、過去にさかのぼって剛性を修正した上で変形の予測値を求め、さらに剛性を修正する作業を繰り返す必要があるからです。
変位から地盤剛性を推定することとします。外力は、トンネル掘削面に見かけ上加わる掘削解放力とします。切羽前方では、この50%程度が加わったと同様な変形が生ずることが知られており、下図のようなモデルにこの外力を加えて観測点での変位を求め、観測値とします。地表面の観測点は、下図に球で示します。
まず、地盤のヤング率とポアソン比、単位体積重量を与え、自重解析を行った後にトンネル部を掘削し、このとき生ずる掘削解放力の50%を加え、観測点での鉛直方向変位を求めて観測値とします。
次に逆解析を行いますが、推定する値はヤング率とし初期値を与えておきます。
逆解析の結果を次図に示します。ヤング率の推定値として正解に近い値が得られることがわかります。
今度は、トンネル上半部にかけて、剛性が周囲と異なった地盤が分布している場合について、この地盤の剛性を逆解析により推定してみましょう。ただし、周囲の地盤の剛性は既知とします。
同じように各地盤の剛性を定めた後、トンネルの掘削解析を行い、観測値を設定します。逆解析を行うことで、トンネル上部に分布する地盤のヤング率が推定できます。
ここで紹介した例では、設定した地盤の剛性を逆解析により正しく推定できましたが、これは観測値として計算値を用いているためで、実際には地盤の不均一性や計測誤差により観測値はばらつき、これほどうまくいくわけではありません。しかし、品質の高い解析モデルと観測値が得られれば、逆解析により地盤の剛性が正しく推定できることは理解いただけると思います。