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第7回 震度6~7の地震における建物の揺れを推定

担当:里 優
2023.03

今回も、蓄積された中小地震時のデータに基づき、大地震時の建物の揺れを推定する方法について検討します。
ヒントとなるのは、計測震度と最大加速度の対数には、比例関係があるという研究結果です。次図に示すとおり、地震時に計測された加速度時刻歴より求めた計測震度は、同加速度時刻歴における最大水平加速度の対数に比例します。

そこで、計測震度の代表値として、建物の最寄り3か所のK-NETで観測された計測震度を使い、これと建物で観測された最大加速度の対数にも比例関係があると仮定します。もしこの仮定が妥当であれば、K-NETで観測された計測震度より建物の最大加速度を推定することができ、関係式より例えばK-NETで震度7が観測された際の建物の最大加速度を予測することができます。
まずはこの仮定が妥当かを、地震時の観測データを用いて検証してみます。

図-1 計測震度と最大加速度の関係
(出典:金刺精一,金子史夫:計測震度と物理量の関係について,応用地質技術年報, p.85-96,1997)
図-1 計測震度と最大加速度の関係
(出典:金刺精一,金子史夫:計測震度と物理量の関係について,応用地質技術年報, p.85-96,1997)

以下に、最寄りのK-NET3か所における計測震度の平均値と、2種類の建物の最大加速度の対数の関係を示します。それぞれに比例関係が認められます。これは、次のような理由によるものです。

前回示したように、K-NETで観測された計測震度と建物1階の計測震度には明瞭な比例関係がありました。建物1階の計測震度と最大加速度の対数には、図-1のように比例関係があります。さらに、図-4と図-5に示したとおり、建物1階の最大加速度と建物の最大加速度にも比例関係があります。したがって、K-NETで観測された計測震度と建物の最大加速度の対数が比例関係となるわけです。
K-NETで観測された計測震度と建物の最大加速度の対数との相関より回帰式を求め、計測震度に震度6~7相当計測震度を代入することで、建物付近で震度6~7の地震が発生した場合に、建物に生ずる最大加速度を推定することができます。

図-2 K-NET計測震度の平均値と最大加速度の関係(4階建、RC造)
図-2 K-NET計測震度の平均値と最大加速度の関係(4階建、RC造)
図-3 K-NET計測震度の平均値と最大加速度の関係(4階建、S造)
図-3 K-NET計測震度の平均値と最大加速度の関係(4階建、S造)
図-4 建物1階の最大加速度と建物の最大加速度(4階建、RC造)
図-4 建物1階の最大加速度と建物の最大加速度(4階建、RC造)
図-5 建物1階の最大加速度と建物の最大加速度(4階建、S造)
図-5 建物1階の最大加速度と建物の最大加速度(4階建、S造)

1階に注目すると、時間とともにスペクトルの形状や強度が大きく変化することがわかります。これは、地盤を介して建物に加えられる加速度(力)が時間とともに変化するからです。2つの例を比較しても、1階のランニングスペクトルは異なっており、地震動に依存していることがわかります。
一方、4階ではピークの周期があまり変化せず、振幅の強度が変化する傾向にあることがわかります。これは、4階の振動は建物の振動特性に依存しているためと考えられます。

最大加速度にかえて、最大層間変形角の対数とK-NET計測震度の平均値との関係も調べてみました。これらの間にも比例関係が認められます。図-6に示したRC造4階建ての建物ではばらつきが大きいのですが、これは建物固有周期が小さく、層間変位の計測値にばらつきが発生することによるものと考えられます。
このことは、最大加速度の場合と同様の方法で建物に生ずる最大層間変形角を推定することができることを示しています。

図-6 K-NET計測震度の平均値と最大層間変形角の関係(4階建、RC造)
図-6 K-NET計測震度の平均値と最大層間変形角の関係(4階建、RC造)
図-7 K-NET計測震度の平均値と最大層間変形角の関係(4階建、S造)
図-7 K-NET計測震度の平均値と最大層間変形角の関係(4階建、S造)

得られた相関図より回帰式を求め、計測震度に震度6~7相当計測震度を代入して、建物付近で震度6~7の地震が発生した場合に、建物に生ずる最大加速度と最大層間変形角を推定してみました。
次表にその結果を示します。

表-1 K-NETでの深度と最大加速度・最大層間変形角の関係

表-1 K-NETでの深度と最大加速度・最大層間変形角の関係

このように、日頃の中小地震時で積み上がったデータから、大地震時の建物の挙動を予測することは大きな価値があると考えます。例えば、大地震時に大きな加速度が予測される建物では、内装や設備が地震時に大きな影響を受けないよう対策を強化したり、大きな層間変形が予測される場合には、建物の耐震補強や制振化などを行うことで、実際に大地震が発生した場合の被害を最小化できます。
Geo-Seismoで提供している地震時の建物の揺れの計測が、単に地震時の建物の揺れを知るだけでなく、防災対策にも活用されることを望みます。

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