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第4回 固有周期の震動中の変化と経時変化
今回は、建物の構造が地震により損傷を受けた場合に、これを計測結果から知る方法を検討します。
建物の構造に損傷が生じた際には、建物の剛性が低下することにより、建物の固有周期が大きくなると考えられます。1質点モデルで説明すると、固有周期Tは建物の質量をm、剛性をkとして次式で表されます。
すなわち、剛性が低下すると固有周期は大きく(長く)なります。したがって、建物構造が損傷を受けたかどうかは固有周期の変化を調べることで知ることができます。
震動中に固有周期が変化したかどうかは、ランニングスペクトル比で調べることができます。2021/10/07 22:41の地震において、Geo-Stickが設置された建物(4階建、RC造)の4階天井で計測された加速度時刻歴と、4階天井/1階のスペクトル比、これのランニングスペクトル比を次図(図-1から図-3)に示します。
時間とともに加速度の大きさや振動特性は変化しますが、ランニングスペクトル比はほとんど変化しません。これは、震動中に建物の固有周期が変化していないことを示しています。震動中に構造に損傷が発生した場合は、固有周期が長くなり、ランニングスペクトル比に変化がみられるはずです。このように、ランニングスペクトル比を観察することにより、振動中に建物が損傷した可能性を検討することができます。
また、地震ごとに固有周期を求めておくことで、この経時変化を調べることができます。
先に示した4階建てRC構造の建物について、ここ2年間における固有周期の推定値の変化を次図に示します。スペクトル比より求めた固有周期は、ほとんど変化していません。仮に地震により建物の構造に損傷が生じた場合には、固有周期に階段状の変化が見られるはずです。したがって、この建物では地震による顕著な損傷や経時劣化はないと判断できます。
次図には、同じ建物において、地震時に観測された最大加速度とそのときの固有周期の推定値の関係を示しました。固有周期は、建物の最大加速度にあまり影響を受けていないことがわかります。
ただし、拡大してみると最大加速度が大きくなると固有周期はわずかに長くなる傾向が見て取れます。これは、大きな加速度を経験すると、固有周期が低下することを示しているのでしょうか。仮にそうであれば、前図で示した固有周期の経時変化では、固有周期が徐々に低下していくことになります。実際にはそうなっておらず、大きな加速度が生じた際に低下した固有周期は地震が終わると元に戻ると解釈できます。
このような加速度と固有周期の関係は、建物構造における剛性の非線形性によるものと考えられます。振動により生じた変形が大きくなると剛性が低下することはよく知られています。変形が小さいうちは振動が終わると剛性は元に戻りますが、変形が大きくなると構造の損傷により剛性は回復しなくなります。この結果、固有周期の経時変化では階段状の変化が見られ、損傷の発生を知ることができると考えています。
次回からは、この変形に注目して地震時の建物の振動を調べて行きます。