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第3回 スペクトル比による建物の固有周期の推定
加速度時刻歴データより求められたフーリエ振幅スペクトルについて、最上階と1階の比(スペクトル比)を求めてみます。これは、建物の1階に比べて、どの周期の振動が最も増幅されたかを調べることに相当します。
下図に、4階建RC造の建物の1階において、2種類の地震で記録された加速度時刻歴を示します。一つ目は加速度が大きく継続時間が短いもので、二つ目は加速度が小さく継続時間が長いものです。
これら2種類の地震について、1階と4階天井でのフーリエ振幅スペクトルと、この比(4階/1階)を取ったスペクトル比を下図に示します。なお、スペクトル比の計算では、フーリエ振幅スペクトルをparzen窓関数(0.4Hz)で平滑化したものどうしを、割り算をして求めています。これは、フーリエ振幅スペクトルの形状がどうしてもギザギザした形になるためです。窓関数による平滑化は、移動平均を求める計算に似ています。
まず、加速度が大きい方についてフーリエ振幅スペクトルを見ると、1階、4階ともにその強度は大きく、数10~数100gal.s となっています。スペクトル比をとると、約0.3sの周期にピークが現れ、倍率は約15倍となっています。
一方、加速度が小さい方に関しては、フーリエ振幅スペクトルの強度は数gal.s であるのに対し、スペクトル比は加速度が大きい場合と同様に、約0.3sの周期にピークが現れ、倍率は約15倍となっています。
2種類の地震で求めたスペクトル比のグラフの形状やピーク値は、加速度時刻歴の形状にかかわらずほぼ同じであることがわかります。このことは、スペクトル比のグラフは地震動に依存しない、建物固有の特性を表していることを示していると考えられます。したがって、このピーク値を示す周期は、建物の固有周期の推定値とみなすことができます。
ちなみに、建築基準法では建物の固有周期の近似値を下式で求めることができるとしています。
T は固有周期(秒)、hは建物の高さ(m)、α は木造又は鉄骨造である階の高さの合計の、h に対する比です。
これまでに示したRC造4階建ての例では、階高を3.5mとして、
となり固有周期として0.28 秒が得られますが、計測結果では0.3秒が得られており、概ね一致しています。
4階のスペクトルと4階/1階のスペクトル比を比較すると、両方とも建物の振動によりピークが見られますが、ピークとなる周期は異なっています。これは、スペクトル比が表しているのが1階から4階までの建物の増幅特性であるのに対し、4階のスペクトルは建物と地盤や基礎が合わさった振動特性となっているためです。建物だけの固有周期を推定するためには、スペクトル比が必要です。
より高い建物ではどうでしょうか。下図には、11階建てと24階建ての建物で得られた、最上階と1階のスペクトル比です。固有周期が1秒を超え、ゆっくりとした揺れが特徴的であることがわかります。また、最も高いピークの左側にいくつかのピークが見られます。これは、建物の2次や3次の固有周期を表していると考えられます。一番高く周期が長い固有周期は、1次の固有周期です。