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第1回 加速度時刻歴とスペクトル
地層科学研究所では、地震時の建物の揺れをモニタリングするGeo-Seismoと名付けたクラウドサービスを提供しています。今回のシリーズでは、Geo-Seismoで計測された様々なデータをもとに、これらのデータを地震防災に役立てていく方法について検討していきたいと考えます。
第1回は、得られるデータとその基本的な分析方法についてです。
地震時の建物の振動計測には、Geo-Stickと呼んでいる加速度計測ユニットを用います。
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Geo-Stickが設置された建物では、地震ごとに加速度時刻歴データが計測されクラウドに保管されるとともに、様々なデータ分析が可能となります。
建物で地震が検知されると、独立行政法人防災科学技術研究所が運用するK-NET(全国強震観測網)のデータを参照し、震源座標やマグニチュードなどの情報を取得します。一例として、下図に2021/10/07 22:41の地震の震源と、Geo-Stickが設置された建物(4階建、RC造)の位置関係を示します。
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各計測階で得られた加速度時刻歴データはグラフ化するとともに、最大加速度を求めます。加速度時刻歴にはフーリエ変換を施し、フーリエ振幅スペクトルを求めます。これにより、各計測階での加速度の時間変化や周波数特性を概観することができます。
次図に、同建物の1階と4階で計測された加速度時刻歴とそのフーリエ振幅スペクトルを示します。1階ではスペクトルの形状が比較的平坦なのに対し、4階では凸型の形状が見られます。これは、地盤から伝搬した地震動に建物の揺れが加わったことを示しています。
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
得られたフーリエ振幅スペクトルをもとに、気象庁の方法によって計測震度を求めます。
表には各階で求めた最大加速度と、計測震度より求めた震度を示します。上層階になるにつれ、最大加速度や震度が増していくことがわかります。また、建物の長辺と短辺方向では、これらの値が異なることもわかります。
表-1 各階の震度
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もう一例を示しておきます。2020/06/25 04:47に同じ建物で計測されたデータです。また、得られた加速度時刻歴とフーリエ振幅スペクトルを、1階と4階について示します。先の地震に比べ継続時間が長いことや時間変化が異なることがわかりますが、フーリエ振幅スペクトルは前の例と大きな違いはありません。このことは、建物の揺れが地盤や建物の揺れやすい周波数に影響を受けていることを示唆しています。
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下表に各階の最大加速度と震度相当値を示します。上の階に行くにつれ加速度が増幅される傾向は同じです。
表-2 各階の震度
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次回は、地震時における建物の振動特性の時間変化を調べる方法を説明します。