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第6回 仮想凍結管モデルと実規模解析
前回までの検討で、高志の式が表す凍結膨張の特徴を数値解析により表現できるようになりました。これを実規模の解析に適用してみましょう。ただし、困ったことに凍結管をメッシュ化しようとすると、これが構造物の大きさに比べて小さいために細かいメッシュ分割が必要となり、節点数が膨大なものとなります。また、メッシュサイズが小さいために、計算の時間間隔が小さくなり、計算時間も増加します。
これを解決するために、凍結管をメッシュ化することなく、凍結管が存在している場合と同様な効果を得られる方法を考案しました。これは、要素内に仮想的に凍結管が存在するとして、これによって奪われる熱量を計算し、熱伝導方程式の損失項に加える方法です。熱伝導の支配方程式を以下に示します。
ここに、Tは地盤の温度、λは熱伝導率、Cvは地盤の体積熱容量、Cvwは間隙水の体積熱容量です。Q0が損失項です。
要素内に、半径r0で長さLの円筒形の凍結管が存在するとします。熱流は凍結管と直交する方向に発生しており、軸対称の熱伝導となっているとします。凍結管の表面温度はT0、これとr1離れた距離の温度がTeに保たれ、定常状態となっているものとします。このとき、凍結管に流れ込む熱量Q0は、次式で表されます。
一方、凍結管では温度Ti の管内流体との熱伝達で、同量の熱量が奪われているはずです。
これら二つの式より、凍結管の温度を求めることができます。
残るはr1ですが、これは要素の体積と同じ体積を持つ球の半径とします。
これで、式(3)を用いて奪われる熱量を求めることができました。そこで、実規模モデルを作成し、仮想凍結管モデルを使って解析してみましょう。
図-2が解析モデルです。直径20m、深さ20mの円筒形の構造の周囲に凍結管を配し、地盤を凍結させた場合をイメージしています。赤い領域は透水性の極めて低い材料とし、側面と下面を不透水境界とすることで、解析領域で間隙水圧は一様となるようにしています。モデル側面と底面の法線方向変位は固定し、また断熱境界としています。モデル上面と中央の構造物の表面は熱伝達境界とし、熱伝達率は104J/hm2℃としました。自重解析によりモデルの初期応力状態を作り、初期温度は20℃としました。
黄色の領域には仮想凍結管を配し、凍結管の半径は20cm、流体の温度は‐30℃、熱伝達率は3.6×106 J/hm2℃とし、2m間隔で深さ20mまで設置されているものとしました。
なお、物性値は「第3回 まずは自重解析から」で示したものを使いました。
まず、A=1として凍結膨張ひずみの応力依存性などは考慮しないで解析してみます。
図-3が50時間後の温度分布です。仮想凍結管を配した要素から温度が低下しています。この結果発生した凍結膨張変位を図-4に示します。仮想凍結管を配した要素で膨張変形が生じ、地盤が反り返ったような変形となることがわかります。この時の間隙水圧分布が図-5です。凍結膨張が周辺の地盤により抑制されるため、自由に膨張できず、間隙水圧が増加している様子がわかります。
次に、高志の式に準じて凍結膨張ひずみの応力依存を考慮した解析結果を示します。ただし、VT0=0として凍結速度依存は考慮しないこととします。σ’m0は、-0.1MPaとして、σ’mが-0.1MPaのときにA=1となることとしました。
ここに、αは有効応力係数、φは間隙水圧、nは空隙率、αfは水の凍結膨張率です。
図-6が得られた変位分布です。A=1に固定した場合に比べ、地表面に近い部分で膨張変形が大きくなっている反面、深い部分の膨張変位は抑えられています。
図-7がこの時の間隙水圧分布です。凍結部では間隙水圧が減少しており、吸水が生じていることがわかります。
これまで6回にわたり、高志の式が表す特徴的な凍結膨張現象を、変形・地下水流れ・熱移動の連成解析を使って再現することに挑戦してきました。
今後は、これまでに得た知見をより実用的な設計解析に適用できるよう、工夫を重ねていく所存です。