技術資料
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第5回 流入水の凍結の考慮と係数Aの導入
これまでに示した凍結膨張の解析では、高志らの研究で得られた次のような特徴が表現されていません。
(1)凍結膨張ひずみは、出入りした水量の影響を受けている。
(2)凍結膨張ひずみは、有効応力や凍結速度の影響を受けている。
これらを表現するため、次のような仮定を新たに加えました。まず、(1)に関しては、凍結膨張ひずみに流入出した水の量を考慮します。具体的には、次のとおりです。
ここに、εfは凍結(体積)膨張ひずみ、nは空隙率、αfは水の凍結膨張率、ρwは間隙水の密度、ΔQは単位時間に出入りした単位体積あたりの熱量、μはΔQのうち潜熱Qlにより消費される割合、ρwは間隙水の密度、vは地下水の流速です。
すなわち、凍結膨張ひずみには、空隙率分の水の凍結膨張ひずみに加え、流入出した水の量とその凍結膨張ひずみが含まれると考えることとします。
凍結膨張ひずみは、凍結開始時間t1 から現在 t までの累積量とし、これを初期ひずみとみなし、構成方程式に組み入れます。
ここに、
であり、Kは体積弾性定数、αは有効応力係数、φは間隙水圧です。
(2)に関しては、水の流れに関する方程式に係数Aを導入し、凍結膨張ひずみが間隙水の流れに影響する度合いを変化できるようにします。
前回用いた単一要素モデルにより、Aを変化させながら凍結膨張ひずみや間隙水の流入出量の変化を調べてみましょう。
図-1から図-5がその結果です。Aが小さいと凍結膨張ひずみが大きくなり、間隙水は流入となります。Aが大きくなるにつれて、凍結膨張ひずみが小さくなり、間隙水は流出となります。これは次のようなメカニズムによるものです。
Aが小さい場合は、凍結現象自体(εf)が間隙水圧に与える影響(間隙水圧の増加)が小さく、間隙水圧は専ら凍結膨張変形εvの影響(間隙水圧の減少)を受けるようになります。この結果、凍結した領域では吸水が卓越し、これが凍結膨張ひずみに加わることで凍結膨張ひずみが大きくなります。
Aが大きくなると、凍結現象自体が間隙水圧に与える影響(間隙水圧の増加)が大きくなり、領域から排水が生ずるようになります。この結果、凍結膨張ひずみが小さくなります。
この係数Aの効果を、凍結膨張ひずみが有効応力などの影響を受ける現象に結び付けることを考えます。
解析結果をまとめたものが図-6です。Aの変化により凍結膨張ひずみと流入出量が変化していることの他に、両者の差がほぼ一定であり、その値は空隙内の水が凍結した場合の5%であることがわかります。これは、第1回に紹介した高志らの実験結果と同じ傾向です。
今度は、横軸にAの逆数を取って解析結果をプロットしてみます。グラフは直線となり、凍結膨張ひずみや流入出量がAの逆数に比例していることがわかります。この結果は、高志らの実験結果で凍結膨張ひずみが有効上載圧の逆数に比例していることを思い起こさせます。
このように、解析により得られた凍結膨張ひずみは、Aの逆数に比例することがわかりました。
ここに、εf1はA=1の場合の凍結膨張ひずみです。A=1の場合には凍結膨張による間隙水圧の変化がないため、流入出した水の凍結がなく、凍結膨張ひずみは空隙率分の水の凍結膨張ひずみとなります。
一方、高志の式では凍結膨張ひずみが次のように表されています。
したがって、次の関係が成り立ちます。
右辺第1項が小さいことから、次のように書くこともできます。
これを使って解析してみました。
ただし、σの代わりに平均有効応力σ’mを、凍結速度Uの代わりに温度変化速度VTを用いることとしました。いずれも凍結開始時の値を用います。
以下の解析結果は、σ’m0=0.001MPa、VT0を=0.04℃/hとした場合のものです。解析モデル上部では平均有効応力が小さいためAが小さくなり、この結果大きな凍結膨張が発生することがわかります。高志の式が表す凍結膨張の特徴が表示されています。