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第2回 変形・地下水流れ・熱移動の連成問題としての凍結膨張
まずは、凍結膨張に関連する現象を記述する方程式を整理します。詳細は、資料(変形・地下水・熱の連成問題に関する支配方程式と陽解法)と資料(動的陽解法と動的緩和法について)をご覧ください。
地盤の変形は、凍結膨張ひずみを考慮した構成方程式と平衡方程式で記述します。
ここに
であり、Kは体積弾性定数、αは有効応力係数、εfは凍結(体積)膨張ひずみ、ρは地盤の密度、gは重力加速度です。また、添え字のiとjは座標軸を表します。
構成方程式は、次のように書いた方が理解しやすいかもしれません。
すなわち、体積ひずみから凍結膨張ひずみを差し引いたひずみが、全応力から間隙水圧を差し引いた、いわゆる有効応力により生じているとするものです。
地下水流れに関しては、間隙水の質量保存を表す式とDarcy則が関係します。
ここに、ρwは間隙水の密度、Mは間隙弾性定数、kは透水係数です。
式(6)は、単位体積中で単位時間内に生じた間隙水の出入り量の差は、間隙水自身の変形と凍結膨張ひずみ、および構造骨格のひずみに起因することを表しています。
熱の移動には、熱量の保存を表す式とFourier の法則が関係します。
ここに、Tは地盤の温度、λは熱伝導率、Cvは地盤の体積熱容量、Cvwは間隙水の体積熱容量です。
地盤の凍結は、次のように表現します。
いま、地盤の温度が0℃となり、さらに冷却によって単位時間に単位体積あたりΔQの熱量が奪われていく場合について考えます。ΔQのうちμ の割合が潜熱Ql により消費され、残りが温度変化に寄与するものとします。これは、地盤の構造骨格を介した熱移動と間隙水の凍結時の潜熱をモデル化したものです。このときの熱移動の支配方程式は次式となります。
あるいは、次のように書くことができます。
この変化がtf 時間継続し、凍結終了温度Tf まで温度が変化し、その後は潜熱の影響は無くなると考えます。この間の温度変化は、次式で求められます。
一方、潜熱分が全て消費される時間は、次のとおりです。
これらの式より、潜熱に消費される割合μ は次のように求められます。
したがって、実験によりTf を求めることができれば、μを定めることができます。
なお、地盤の潜熱は水分量の変化を考慮し、次のように求められます。
ここに、Qls は単位体積あたりの水の潜熱です。
凍結膨張ひずみεf は、飽和時におけるその最大値εf0に対して、潜熱に消費された熱量と潜熱の割合で生ずることと仮定します。
凍結膨張ひずみの最大値は、空隙を満たしていた水の体積に凍結膨張率を乗じた値とします。
飽和時の透水係数kは、凍結前の値をk0 とし、地盤の凍結の進行とともにその最低値kf に向かうものとしてモデル化します。
凍結により地盤の剛性は高くなりますが、これは次のようにして構成方程式に組み込みます。透水係数と同様に、地盤のヤング率Eは、凍結前の値をE0 とし、凍結の進行とともにその最大値Ef に向かうものとします。
ひずみが変化せずにヤング率が大きくなると、有効応力が大きくなり、これを解消するために膨張ひずみが発生します。表現したい現象は、応力もひずみも変化せずヤング率だけが大きくなるというものです。このため、次のような修正応力(仮想的な内部応力)を加えます。分かりやすくするため、一軸問題として説明します。
ヤング率の増加前の応力‐ひずみ関係は、
であり、ヤング率が増加しても応力が変化しないために必要な修正応力σ0 は、次のように求めることができます。
次回からは、これらの式で表される凍結膨張現象を、数値シミュレーションで可視化してみます。