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第12回 動的変形と地下水流れの連成問題

担当:里 優
2016.12

本シリーズでは、最初に動的陽解法の方法論を示し、次にこれを静的解析に適用した動的緩和法について説明しました。続いて、地下水流れなどの場の問題を陽解法で解く方法を説明し、ここ数回は動的緩和法と場の問題の陽解法を組み合わせた連成解析をご紹介しました。今回は、この総仕上げとして地盤の動的変形と地下水流れの連成問題を取り上げます。

この問題の典型例は、いわゆる地盤の液状化現象です。地震動により地盤の剛性が低下し地盤沈下が生ずる結果、間隙水圧が増加し地下水位が上昇します。この結果さらに地盤の剛性が低下する、といった現象です。これを、これまで説明した動的陽解法と場の問題の陽解法で再現してみます。

とはいっても、現在研究されている地盤の構成方程式を組み込むのは容易ではありません。そこで、現象の特徴をある程度表現できる、単純な構成方程式を用いることとします。

まず地盤の弾性限界を表す条件ですが、モールクーロンの式を適用します。拘束圧が大きくなるほど高いせん断応力まで弾性状態が保たれるという地盤の性質を、最も単純に表現しています。2次元問題では、次式となります。

数式1
数式2
数式3

ここに、Cは粘着力、φは内部摩擦角、φは間隙水圧です。

数式4
数式5
数式6

ここに、Eはヤング率、E0は弾性状態でのヤング率、γmaxは最大せん断ひずみ、γmax0は応力状態が弾性限界を超えた直後の最大せん断ひずみ、Kは定数です。

図-1に、式(4)の関係をグラフで示しました。なお、Kは1.0としています。また、図-2にはE=160(MPa)、v=0.3とした場合の有効主応力差(σ’1-σ’2)と最大せん断ひずみの関係を示しました。ただし、有効主応力和(σ’1+σ’2)は変化しないものとしています。Kの値で応力-ひずみ線図の形が変わることがわかります。また、式(1)と式(4)で地盤の応力-ひずみ関係の特徴をある程度表現できることもわかります。

図-1 最大せん断ひずみとヤング率の関係(κ=1.0)
図-1 最大せん断ひずみとヤング率の関係(κ=1.0)
図-2 κによる応力-ひずみ関係の変化(左:κ=0.5、中:κ=1.0、右:κ=1.5)
図-2 κによる応力-ひずみ関係の変化(左:κ=0.5、中:κ=1.0、右:κ=1.5)

その他の支配方程式は、動的陽解法および変形と地下水流れの連成解析で説明したとおりです。変形と地下水流れの連成解析では、大きな減衰を用いた動的緩和法で静的解析を行ってきましたが、ここでは動的解析を行いながら同じ時間刻みで地下水流れを解き、変形と間隙水圧変化の連成効果も考慮されます。計算のフローは、「変形と地下水流れの連成問題に関する支配方程式と陽解法」の末尾に示しました。

それでは、解析例を示します。解析モデルは図-3に示したとおりで、モデル底面には粘性境界を配し反射を抑制しました。粘性境界につきましては、本シリーズ第3回をご参照ください。モデル底面と左右側面の境界では、上下方向の変位を拘束しました。また、モデル底面と側面の水位は固定し、地表面では地下水の流出のみが許されることとしました。
表-1に物性値をまとめて示します。地盤の透水係数には約10-2m/sと大きな値を用い、地下水流れの影響を際立たせることとしました。底面からは、図-5に示す変位と等価な水平荷重を加えました。

図-3 解析モデル
図-3 解析モデル
図-4 要素分割
図-4 要素分割
表-1 解析に用いた物性値一覧

まず、地盤の変形の様子を動画-1に示します。解析開始から約2秒後までのものです。変形が底面から地表面に向けて進行しますが、地表面に近づくと変形が大きくなります。また、地表面には沈下変形が見られるようになります。この原因は、地表面に近い地盤では拘束圧が小さいため弾性限界が低く、加えられた変形によりこの部分では弾性限界を超えてしまうことにあります。この結果、剛性が低下し(動画-2)水平変形が大きくなるとともに、沈下変形が発生します(図-6、図-7)。

動画-1 地盤変形の推移
動画-2 ヤング率の推移(赤:小さい)
図-6 変位の経時変化
図-6 変位の経時変化
図-7 地表面沈下の経時変化
図-7 地表面沈下の経時変化

一方、剛性が低下した領域では沈下変形に伴い間隙水圧が増加します。動画-3には、過剰間隙水圧(初期静水圧分布からの増分)の推移を示しました。剛性が低下した領域を中心に間隙水圧が増加していることがわかります。

間隙水圧増加の大きい領域からは地下水が流出し、地下水位を上昇させます。この様子を動画-4、動画-5と図-8に示します。図-8は、地表面に接する要素の全水頭(間隙水圧相当の水頭と底面からの高さに相当する位置水頭の和)を示します。この値は、概ね地下水位(モデル底面からの位置)を示しています。地表面の高さがモデル底面から50mですので、この解析では地下水位が地表面近くまで上昇していきます。上昇した地下水位は、その後時間の経過とともに初期水位へ向かって回復していきます。本解析では先に述べたとおり透水性を高く設定してあるため、地下水位の上昇や低下の速度は大きくなっています。

動画-3 過剰間隙水圧の推移(赤:大きい)
動画-4 地下水流速の推移
動画-5 地下水位の変化
図-8 全水頭の経時変化(地表面に接する要素)
図-8 全水頭の経時変化(地表面に接する要素)

このように、陽解法を用いた動的変形と地下水流れの連成解析により、地盤の液状化で見られるような間隙水圧の増加や地表面沈下、地下水位の上昇を、定性的には表現できることがわかりました。

陽解法は、剛性マトリクスを記憶したり連立方程式を解く必要がなく、今回ご紹介したような、動的変形と地下水流れが組み合わさった複雑な問題も、小さなメモリと短い時間で解くことができます。様々な可能性を秘めた陽解法を、皆様もご活用ください。

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